2026/11/02

暗号資産週間レポート(2026.10.25~2026.10.31)
AI関連銘柄調整進む、Binanceハッキングに伴うリスクオフ、米中間選挙の行方に注目


【10/25~10/31週のサマリー】

・FOMCは政策金利を3.75〜4.00%で据え置き(賛成10・反対2)
・AI投資への採算性懸念が再燃し、ハイテク株急落
・30日、Binanceから約63億ドルが不正流出


【暗号資産市場概況】

 10/25~10/31週におけるBTC/JPYの週足終値は前週比▲2.99%の12,222,850円、ETH/JPYの週足終値は同▲3.16%の355,085円(※終値は10/31の当社現物EOD[11/1 6:59:59]レートMid値)。

 先週の暗号資産市場は、週前半の地政学リスク後退や金融政策イベント通過を受けた底堅い推移から一転、週末にかけて「米ビッグテックの決算失望に伴うハイテク株急落」と「Binanceにおける史上最大のハッキング事件」という二重のショックに見舞われ、下落基調を強める波乱の一週間となった。

 週初、ビットコインは79,000ドル台まで軟化してスタートしたものの、AIスタートアップ大手AnthropicのIPO申請報道や、27日にイラン最高指導者が戦闘終結に向けた対応を求めたとの報道を受けて地政学リスクが後退。WTI原油先物が再び100ドルの大台を割り込んだことでインフレ警戒感が和らぎ、ナスダック総合指数の上昇(+1.18%)とともにBTCは81,000ドル台を回復した。需給面でも米現物ETFに押し目買いが入り、26〜28日の3営業日で合計約4.2億ドルの純流入を記録した。

 29日未明の米FOMCでは、市場予想通り政策金利が3.75〜4.00%に据え置かれた。採決は10対2と2名が0.25%の利上げを主張しタカ派色が意識されたものの、ウォーシュFRB議長が会見でインフレへの警戒を維持しつつも12月の追加利上げを明言せず、次回会合への予断を排した姿勢を示したことで市場は安堵。米2年債利回りが4.787%から4.685%へ急低下し、ドル円が157円台後半へ軟化する中、BTCは週間高値となる81,890ドルまで買い進まれた。その後に発表された米7〜9月期実質GDP速報値(前期比年率+3.4%)や米9月コアPCE価格指数(前年比+3.1%)は米経済の堅調さを示したが、アジア時間にかけてサムスン電子の決算失望による韓国KOSPIの下落などが重石となり、BTCの上値は徐々に重くなっていった。

 局面が急変したのは30日である。米国市場引け後に発表されたAlphabetの決算では、クラウド部門が前年比103%増と急伸した一方、全体の売上高・EPSが市場予想に届かず、AIデータセンター等への巨額設備投資によってフリーキャッシュフロー(FCF)が赤字に転落。巨額投資に対する「投下資本利益率(ROI)への疑念」が再燃し、IntelやAmazonの冴えない決算も重なってナスダック総合指数は2.86%安と急落した。

 追い打ちをかけたのが、同日日本時間早朝に報じられたBinanceにおける不正流出事件である。約63億ドル(約9,900億円)規模という暗号資産史上最大のハッキング被害が確認されると、取引所を巡るシステミック・リスクへの警戒感からパニック売りが発生。BTCは心理的節目を次々と割り込み、週間安値となる76,141ドルまで急落した。暗号資産デリバティブ市場では24時間で15.4億ドルを超えるロングポジションが強制清算(ロスカット)され、米ビットコイン現物ETFも30日単日で6.43億ドルの大幅純流出を記録した。

 週末にかけては、Binanceによる全額補償方針の表明や追加流出の停止を受け、パニック的な売り一巡後は77,000ドル前後で下げ渋った。


 今週最大の注目材料は、4日の米中間選挙である。今回の選挙結果は単なる政権信任にとどまらず、上下両院の主導権の行方が暗号資産関連法案の審議ペースと規制方針を大きく左右する。 下院を民主党が奪還して「ねじれ議会」が生じた場合、下院金融サービス委員会などの主要ポストを民主党リベラル派が押さえることで、クラリティ法案におけるSECの管轄縮小やステーブルコイン法案の早期成立期待は後退する可能性が高い。DeFiへのマネーロンダリング対策や消費者保護・環境負荷開示を巡る対立から法案成立が長期化し、規制の不透明感が市場の上値を抑える重石となり得る。 さらに「上下両院で民主党が過半数を獲得(民主党スイープ)」となった場合は、暗号資産業界にとってより厳しいシナリオとなる。包括的な市場育成法案の棚上げにとどまらず、SEC(証券取引委員会)による個別法執行(Regulation by Enforcement)路線の再強化や、キャピタルゲイン増税・マイニング電力課税の再浮上など、業界全般への締め付け強化への警戒感が台頭し、リスク資産としての暗号資産に下落圧力がかかりやすい。 一方で、政治的思惑から抑制されていた選挙後の外交・軍事リスク(対イラン軍事作戦激化に伴う原油高・インフレ再燃懸念)も燻っており、どのシナリオにおいても選挙通過直後はボラティリティの急上昇に警戒が必要である。

 経済指標・企業決算では、3日の米10月ISM製造業景況指数、4日の米10月ADP雇用者数、そして6日の米10月雇用統計が最重要イベントとなる。雇用指標が堅調さを示しインフレ長期化が意識されれば、12月FOMCでの追加利上げ確率が上昇し、米長期金利の上昇を通じて相場を圧迫するリスクがある。企業側ではAppleおよびAMDの決算発表が控えており、AI半導体・インフラ需要の持続性が改めて試される。

 さらにオンチェーンおよび需給面では、Binanceからの資金流出入データの推移や、現物ETFの純流出が沈静化するかが市場センチメント回復の鍵を握る。チャート上では直近安値の76,000ドル近辺がサポートとして機能するかが目先の分岐点であり、これを明確に割り込んだ場合は72,000〜74,000ドル水準への下振れを警戒したい。



[BTC/USD週間チャート(30分足)]

(TradingView提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成)


[BTC/JPY週間チャート(30分足)]

(TradingView提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成)


[米BTC現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計(週足)、BTC価格]

(緑・赤のバーが資金流入出 / 白線が運用資産残高合計/ 橙線がBTC価格)
(SoSoValue提供のチャートより SBI VC トレード株式会社 市場オペレーション部作成)


[米ETH現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計(週足)、ETH価格]

(緑・赤のバーが資金流入出 / 白線が運用資産残高合計/ 青線がETH価格)
(SoSoValue提供のチャートより SBI VC トレード株式会社 市場オペレーション部作成)


[米XRP現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計(日足)、XRP価格]

(緑・赤のバーが資金流入出 / 白線が運用資産残高合計/ 橙線がXRP価格)
(SoSoValue提供のチャートより SBI VC トレード株式会社 市場オペレーション部作成)



【10/25~10/31週の主な出来事】


【11/1~11/7週の主な予定】



【今週のひとこと】 史上最大の暗号資産流出が示した「鍵ではなく承認プロセス」のリスク

 2026年10月30日の早朝5時過ぎ(日本時間)、世界最大の暗号資産取引所Binanceで大規模な資産の不正流出が発生しました。Binanceは30日、被害額を約63億ドル(約9,900億円)と公表し、流出した資産の損失を全額補償する方針を明らかにしました。

 ブロックチェーン分析企業TRM Labsによれば、資産はEthereum、Bitcoin、Tron、XRP Ledger、Solanaなど10のブロックチェーン上のウォレットから持ち出され、その大半が約20分間に集中しました。TRM Labsの推計額は約63.6億ドルで、暗号資産の盗難としては過去最大です。2025年2月のBybit事件(約15億ドル)の約4倍に相当します。犯行については、今回盗難された資金が先月のBitgetハッキングで盗難された資金と混在していることもありTRM Labsは北朝鮮系ハッカー集団TraderTraitorによるものと分析しています。

 注目すべきは、その手口です。

 Binanceの初期調査では、エンジニアのノートPCが侵害され、そこから取引所のサービスを動かす実行環境にアクセスされた可能性が示されました。その後の調査では、当初想定されていたもの以外にも複数の侵害箇所が判明したと同社は説明しています。一方、Binanceはウォレットの秘密鍵が漏えいした証拠は現時点で見つかっていないとしています。

 今回の事件では、攻撃者がBinanceの署名インフラを悪用し、正規の署名を伴う送金を実行させた可能性が指摘されています。つまり、鍵の保管だけでなく、誰が、どのような条件で、その鍵による署名を実行できるのかという業務プロセス自体が攻撃対象になったのです。

 さらにEthereum上では、EIP-7702という仕組みが悪用されました。これは、通常のウォレットにスマートコントラクトのコードを実行させることを可能にするEthereumの標準仕様です。2025年5月のPectraアップグレードで導入されたもので、ウォレットの機能を拡張することを目的としています。

 BinanceのRichard Teng CEOによれば、攻撃者はこのEIP-7702による委任を利用してホットウォレットの実行権限を取得しました。本来必要な社内の承認手続きを経ずに、この委任が実行されたことが問題だったと説明しています。EIP-7702自体の脆弱性というよりも、その機能を利用するための署名・承認プロセスが適切に統制されていなかったことが問題の核心と思われます。

 また、Blockaidの分析では、攻撃者は事前にTornado Cash経由で運用用アドレスに資金を送り、悪意あるコントラクトを配置していました。攻撃の数時間前には実際の手順を試験的に実行していた形跡も確認されています。単発の脆弱性攻撃ではなく、事前準備を重ねた計画的な侵入だったことがうかがえます。

 今回の事件が示したのは、デジタル資産の安全性を確保するには、秘密鍵を安全に保管するだけでは不十分だということです。署名の権限管理、取引の承認ルール、実行環境へのアクセス制御、そして異常な取引を検知する仕組みまで含めた、組織全体のガバナンスが問われています。




(SBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成)



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