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年初に大幅な調整に見舞われたイーサリアム(ETH)は、第2四半期に入り現物主導の力強い回復を示し、Pectraアップグレードの実施という重要な局面を迎えました。
このアップグレードは、アカウント抽象化によるUX向上やL2手数料の削減など、ネットワークの機能強化に大きく貢献しています。
また、米国市場における現物型ETH ETFでは、年初からの資金流出に歯止めがかかり、足元では資金流入への転換も見られるなど、機関投資家の関心も再び高まりつつあります。
本コラムでは、2025年以降の最新動向を踏まえ、イーサリアム(ETH)の特徴や仕組み、そして今後の価格予想と買い時、将来性について詳しく考察していきます。
【2025年5月最新】イーサリアム(ETH)の最新価格動向
図1|ETH市場価格の推移(出所:Coingeckoの情報を基に当社作成)
2025年第1四半期、イーサリアム(ETH)は-45.2%と大幅な調整を経験(図1左)しましたが、第2四半期に入り回復の兆し(図1右)を見せています。
2025年5月上旬にはイーサリアム価格が急騰し、1日で21.8%以上上昇して一時2,500ドルに迫る場面もありました。
この上昇は主に現物需要主導であり、投機的なデリバティブ取引によるものではない点が注目されます。
この時期、市場センチメントも顕著な改善を見せ、主要なオピニオンリーダー(KOL)によるイーサリアムの再評価を促す発言も観測されました。
なお、2025年以降、米国市場では現物型ETH ETFからの資金流出が続いていましたが、4月上旬を境に資金流入が純増に転じる兆しも見られています(図2)。
もっとも、こうした動きはあくまで一時的な反発の可能性もあり、引き続き慎重な見極めが求められます。
図2|ETH ETFに投資されたお金の出入り(純増減)の動き(出所:Coingrassの情報を基に当社作成)
イーサリアム(ETH)の特徴・仕組み
イーサリアム(ETH)は、単なる暗号資産(仮想通貨)としての側面だけでなく、スマートコントラクトプラットフォームとしての多様な機能を持っています。
2015年のローンチ以来、分散型アプリケーション(dApps)の基盤として急速に普及し、DeFi(分散型金融)やNFT、Web3.0などさまざまな領域で利用が進んできました。
ここで、現在のイーサリアムの特徴をいくつか挙げ、その仕組みの変遷を整理します。
●EIP-1559と手数料バーン機能
2021年7月のロンドン(London)ハードフォークで導入されたEIP-1559は、取引手数料の一部をバーン(焼却)する仕組みを提供し、理論上は供給抑制に寄与するものでした。これにより、ネットワーク利用が活発な時期にはイーサリアム(ETH)が自動的に減少し、デフレ効果が期待されました。
●マージ(Merge)アップデートによるPoWからPoSへの移行
2022年9月のマージ(Merge)により、イーサリアムはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと完全移行しました。これに伴い、新規発行量は大幅に削減され、従来のマイニング報酬が廃止されることで、供給抑制の方向性がさらに強化されました。
●デンクン(Dencun)アップグレードとBlob市場の導入
2024年3月実施のデンクン(Dencun)アップグレードは、イーサリアムのスケーラビリティ向上を目的として、EIP-4844に基づく「Blob市場」を新たに導入しました。この仕組みは、レイヤー2(L2)ソリューションへのデータ投稿コストを大幅に削減し、L2上での取引が活発化する一方、従来L1で行われていた手数料収入が減少する結果を招きました。そのため、イーサリアムのバーン量が減少し、結果として供給増加が進んだのです。
●ペクトラ(Pectra)アップグレード
2025年5月7日に実施されたペクトラ(Pectra)アップグレードでは、11の主要なEIP(イーサリアム改善提案)が導入されました。これには、アカウント抽象化(EIP-7702)によるユーザーエクスペリエンスの向上、バリデータの最大有効残高引き上げ(EIP-7251)によるステーキング効率化、そしてブロックごとの目標Blob数を3から6へ倍増させることによるL2手数料のさらなる削減とスループット向上が含まれます。アップグレード直後には、ネットワーク手数料の減少に伴い、イーサリアムの供給量が一時的にデフレ状態となる場面も見られました。
これらの仕組みの変遷が、イーサリアムの経済設計や市場評価に大きく影響しており、現在の市場動向を理解する上で重要な要素となっています。
イーサリアム(ETH)の将来性:主要なカタリスト
ネットワークアップグレード
2025年5月7日に実施されたPectraアップグレードは、11の主要なEIP(イーサリアム改善提案)を含み、アカウント抽象化(EIP-7702)によるUX向上、バリデータの最大有効残高引き上げ(EIP-7251)によるステーキング効率化、そしてブロックごとの目標Blob数を3から6へ倍増させることによるL2(レイヤー2)手数料削減とスループット向上を実現しました。
アップグレード後、ETH供給量は一時的にデフレ状態となりました(図3)。
図3|イーサリアムネット上の手数料推移およびETH循環供給量の推移(出所:coinmetricの情報を基に当社作成)
今後のアップグレードとして、2025年後半にはFusakaが予定されており、PeerDAS(ピアデータアベイラビリティサンプリング)導入やガスリミットの大幅引き上げが検討されています。
その後のGlamsterdamでは、Verkle Treeへの移行やさらなるガス最適化が計画されています。
イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏は、長期的には2Dサンプリング技術により1スロットあたり128 Blobを実現し、オンチェーンで毎秒10万トランザクション(TPS)を目指すビジョンを示しています。
機関投資家の動向とETF
機関投資家の関心は依然として高く、特に現物型ETH ETFへのステーキング機能追加が承認されれば、大きな資金流入が期待されますが、SECの判断は10月まで遅れる可能性も指摘されています。
ステーキングエコシステム
Pectraアップグレード後、イーサリアム(ETH)のステーキング量は一時的に増加に転じましたが、バリデータの主要な収益源であるトランザクション手数料は減少しており、今後のステーキング利回りへの影響が注視されます。
図4.ETHのステーキング量の推移(出所:https://dune.com/hildobby/eth2-staking)
イーサリアム(ETH)の今後の買い時を考察
2025年5月中旬現在、イーサリアム(ETH)は急騰後、2,300ドル~2,500ドル付近で値固めをしています。
この上昇が現物主導であったことは好材料です。
短期投資家は現在のサポート・レジスタンスレベルを注視すべきです。
長期投資家は、ネットワークアップグレードの進捗、機関投資家の採用、イーサリアムのバーンメカニズムといったファンダメンタルズを重視するでしょう。
購入判断に際しては、規制の不確実性、マクロ経済状況、アップグレードの技術的リスク、他のL1ブロックチェーンとの競争激化、そして市場センチメントの急変リスクを常に考慮する必要があります。
総括とイーサリアム(ETH)の今後の展望
2025年5月中旬のイーサリアム(ETH)は、Pectraアップグレードという重要なマイルストーンを達成し、市場からの期待も高まっています。
その強みとしては、回復基調にある市場心理、Pectraアップグレードによる具体的な機能改善、現物主導と見られる需要、そして野心的な長期開発ロードマップが挙げられます。
一方で、規制の先行き不透明感、バリデーターの収益性に関する課題、将来の複雑なアップグレードの確実な実行、競争環境の激化、マクロ経済への依存といった課題も依然として存在します。
特に、Blob市場の拡張と手数料バーンの進展は、イーサリアムの供給量に影響を与え、中長期的にはイーサリアムをデフレ資産へと転換させる可能性を秘めています。
これは、将来的にイーサリアムの発行量が減り、希少性が高まることで「価値が安定しやすいお金」としての側面を強め、長期的な価値保存手段としての魅力を高めるかもしれません。
2025年後半以降、注目すべき主要な動向としては、Fusakaアップグレードの具体的な進捗、現物ETH ETFにおけるステーキング機能に関する規制当局の判断、L2ソリューションの普及とそれに伴うBlob需要の実際の増加、機関投資家の資金フロー、主要国における規制明確化の動き、そして世界的なマクロ経済および金融政策の転換などが挙げられます。
これらの要素が、イーサリアムがグローバルな決済レイヤーおよび分散型アプリケーション基盤としての地位をさらに強固なものにできるかを左右するでしょう。