前提
本レポートでは暗号資産(仮想通貨)アプトス(APT)の概要について解説します。 アプトスはMove言語・高速スループットが特徴のレイヤー1ブロックチェーンで、Facebook(現Meta)のディエム(旧リブラ)プロジェクトの技術を基に、元ディエム(旧リブラ)開発者が創設したプロジェクトです。アプトスは、スケーラビリティ、安全性、および拡張性に重点を置いており、高いパフォーマンスを提供することを目指しています。
複数のレイヤー2でエコシステムを確立していくイーサリアム(ETH)のような志向ではなく、高速なレイヤー1単体でエコシステムをつくるアプローチはソラナ(SOL)と似ており同ブロックチェーンと競合と認知されることも多いです。
今回はアプトスとネイティブトークンAPTの概要およびエコシステムを解説します。
公式サイト:https://aptosfoundation.org/
ドキュメント:https://aptos.dev/
暗号資産(仮想通貨)アプトス(APT)の概要
コンセンサスメカニズム
アプトスのコンセンサスアルゴリズムは、DiemBFT v4に基づいており、改良されたByzantine Fault Tolerance(BFT)プロトコルであるHotStuffを採用しています。HotStuffは、ノードの中から選ばれたリーダーが連携をまとめながら、全てのノードが連絡を取る仕組みです。このプロトコルは、特にネットワークのスループットとレイテンシーの改善に重点を置いて設計されています。ブロック生成ノードはPoSによって選定されるため、アプトスは他の多くのブロックチェーンと同様にステーキング可能です。
主な特性
- パイプライン処理: トランザクションの処理を並列化し、最大限のスループットを実現します。
- チェックポイントとガーベジコレクション: システム全体の整合性を維持しつつ、不要なデータを効率的に除去します。
- スケーラビリティ: コンセンサスプロトコルは、ネットワークノードの増加に対応して効率的にスケールアップできます。
Moveプログラミング言語
Moveは、安全かつ柔軟なスマートコントラクトの開発を可能にする新しいプログラミング言語で、主に以下の特徴があります。
- リソース型プログラミング: Moveではリソースを一意に管理し、所有権の移転やリソースの二重使用を防ぎます。これは、トークンや資産の管理において重要なセキュリティ特性です。
- 強力な型システム: Moveは厳格な型システムを持ち、コントラクトの誤りをコンパイル時に検出します。
- 形式検証: Moveは、形式検証をサポートしており、スマートコントラクトの安全性を数学的に証明することが可能です。
このような特徴がありながらSolidityと比較して開発者コミュニティは小さくアプリケーションは移行にかかる開発コストも必要な点はデメリットとして働きます。
ネットワーク構成
Aptosネットワークは、多層アーキテクチャと分散型ノード配置により高い可用性と耐障害性を提供します。
レイヤー構造
- トランザクション層: トランザクションの受信、検証、および実行を担当。
- データ層: データの保存とアクセスを効率的に管理。
- ネットワーク層: ノード間の通信を最適化し、データの迅速な伝播を確保。
資金調達
アプトスの開発会社であるAptos Labsは2022年に2億ドル(当時の円レートで約250億円)を資金調達しています。a16z cryptoがリードし、Multicoin Capital、Katie Haun、3 Arrows Capital、ParaFi Capital、IRONGREY、Hashed、Variant、Tiger Global,、BlockTower、FTX Ventures、Paxos、Coinbase Venturesらが参加しました。なお、Metaおよびその関係者は本プロジェクトに出資はしていません。
APT トークミクスの概要
APTトークンは主にステーキング、ガス手数料、ガバナンスに活用されます。
初期供給量
APTトークン (Aptos ) の初期総供給量は10億です。メインネットローンチは2022年10月12日です。初期トークンの配布割合は以下のとおりです。
https://aptosfoundation.org/currents/aptos-tokenomics-overview
APTは、エコシステムへのインセンティブや助成金としても活用されており、特定のマイルストーンを完了したプロジェクトにもAptos Foundationから付与されます。
初期エコシステムの駆動を目的に、1億2,500万APTがエコシステムプロジェクト、助成金に割り当てられ、APT Foundationは500万APTを利用することができます。コミュニティとFoundationの残りのトークンの1/120は今後10年間のロックを経て解除されます。
APTトークンを利用して、Aptos Foundationにはエコシステム拡大のイニシアチブを取ることが期待されていることが分かります。
https://aptosfoundation.org/currents/aptos-tokenomics-overview
参考:Aptos Tokenomics Overview
暗号資産(仮想通貨)アプトス(APT)の価格推移
以下のグラフは、直近2023年第二四半期から2024年第二四半期の時価総額と24時間出来高の推移です。
2024年3月をピークに時価総額、取引量が上昇しています。2024年第二四半期の現在は、時価総額34位を記録しています。
暗号資産(仮想通貨)アプトス(APT)のステーキング
アプトスは、PoSネットワークのためステーキングすることでAPTトークンを報酬として受け取ることができ、ネットワークのセキュリティと安定性に貢献できます。APTトークンは、バリデーターがネットワークの検証とブロック生成を担うためにステーキングされます。
一般的にPoSネットワークでは、トランザクションの順序と実行結果がストレージに保存され、状態が記録される前に、バリデーターによって定足数の合意、つまりコンセンサスを得る必要があります。アプトスではCosmosなどの仕組みと同様にユーザーがAPTを委任(デリゲート)するタイプのPoSが採用されています。
アプトスでは、このコンセンサスのプロセスへ参加をするためにステーキング量に比例した投票の重み付けをしており、ブロックの提案に選ばれたバリデーターはステーク量に比例した報酬を受け取ります。報酬の発生はエポックごと(現在のメインネットで約2時間で1エポック)です。
ステーキング報酬はバリデーターオペレーターとステーカーの間で分割され、分配に制限はありません。現在、最大報酬率は年間7%から始まり、エポックごとに評価されます。
最大報酬率は毎年 1.5% ずつ低下し、下限の年間 3.25% に達するまでには 50 年以上かかると予想されています。
参考:Aptos Tokenomics Overview
バリデーターのスラッシングについて
なお、執筆現在ではスラッシングが実装されていません。
https://aptos.dev/concepts/staking
スラッシングとは、ブロックの2重署名などの不正な行動を取ったバリデーターがステーキングしたAPTを没収される制裁を与えることで、正直な行動を促す仕組みです。これが機能していないということは、実質的に現時点で参加しているバリデーターが誠実な行動を取ることが前提になっていることに留意する必要があります。これは、今後のアップデートで変更されるはずです。
バリデーターに参加するには、必要な最小額をステークする必要があります。現在、ステークに必要な最小額は100万APTで、最大額は5,000万APTです。
ステーキングされたAPTのロックアップ期間は、ガバナンスによって決定されます。
参考:公式ドキュメント
アプトス(APT)のエコシステム
DeFiプロジェクト
アプトスのTVLは$400Mです。(2024年5月時点)
https://defillama.com/protocol/aries-markets
新規ユーザー流入推移としては以下のように継続して新規流入があります。(全てがアクティブではありません。)
https://flipsidecrypto.xyz/hess/top-projects-on-aptos-56VkCw
主要なアプリケーションは以下の通りです。
DeFI
Aries Markets
資金の貸し手・借り手をマッチングしてレバレッジトレードを出来るプロトコルです。アプトスのトランザクションスピードを活かしてオンチェーンオーダーブックの仕組みを採用しています。
Thala
Thalaは余剰担保形式のステーブルコインです。ユーザーはAPT等のトークンを担保にステーブルコインMODを借り入れすることができます。加えてAPTのリキッドステーキングやAMMプールの提供もしています。また独自トークンであるTHLはveモデルを採用しており、APYブーストができます。MakerDAO、LIDO、Curveをあわせたようなプロジェクトになっています。
Amnis Finance
Amnis FinanceはAPTのリキッドステーキングです。amAPTはアプトス上で最も主要なLSDです。ユーザーはAPTのステーキング報酬を享受しながらDeFiを使用できます。
ゲーム・NFT
Topaz
Topazはアプトスの主要なNFTマーケットプレイスです。
Tapos
Taposは、画面をタップして猫をくすぐり、タスクを完了することでコインを獲得するバイラルクリッカーゲームです。獲得されるコインがミームコインのようにも扱われています。
総括
本レポートでは暗号資産アプトス(APT)の概要について解説しました。次のソラナ(SOL)を期待したレイヤー1への資金および開発者流入への期待は常にされており、その流入の一部は既に実現しているかもしれません。また2024年になっても新しいレイヤー1は新しく発表されています。その点においてアプトスは次のソラナ候補としては一定の先行をしています。既存および後発のプロジェクトとどのように競合できるか注目されます。
【ご注意事項】
本記事は執筆者の見解です。本記事の内容に関するお問い合わせは、株式会社HashHub(https://hashhub.tokyo/)までお願いいたします。また、HashHub Researchの各種レポート(https://hashhub-research.com/)もご参照ください。
提供:HashHub Research
執筆者:HashHub Research