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前提
今回は今後の暗号資産(仮想通貨)経済圏の拡大が、ドル経済の拡大につながる理由について解説します。
筆者の見解では、今後の暗号資産経済圏の拡大が、ドル経済の拡大につながり、為替のフローとしても暗号資産経済圏はドル高要因の構成要素の1つとして言い切って良いと筆者は考えています。当然それはマクロの為替に影響を与えるほどのものではありませんが、暗号資産市場が今後5倍や10倍となると、それは影響力として目立つようになるでしょう。
ビットコイン(BTC)が脱ドル化という文脈と結びつけられるのにも関わらず、暗号資産市場全体の拡大が何故ドル経済圏の拡大につながるかを説明します。
暗号資産(仮想通貨)とドル経済拡大の背景と理論的枠組み
1. 暗号資産(仮想通貨)取引はドル建て
暗号資産への投資はしばしばドル建てで行われます。これは、暗号資産市場が主要な取引ペアとしてUSDを採用しているためです。したがって、暗号資産への投資が増えると、当然ドルに対する需要も増加します。さらに、暗号資産が価値保存手段や取引手段として使われるようになると、ドルを暗号資産に変換する動きが活発化し、ドルに対する需要が高まります。
これはユーザーが日本の交換業者で日本円建てでビットコイン(BTC)を購入していてもこの効果が働きます。日本円でビットコインが買われても、最も流動性が高いドル建て市場と裁定が働くからです。また、新規マイニングのビットコインはドルで販売されることも中心で、これもドル需要につながります。
2.ステーブルコイン発行体は米国債の需要家になっている
暗号資産の経済圏が拡大をすれば、ステーブルコイン(Stablecoin)の残高も大きくなり、暗号資産の世界にドルが滞留します。すでにステーブルコイン発行会社の国債保有は相当規模になっています。
例えば、テザー(USDT)は、 2024年上半期に過去最高益を計上し、同時に米国債の保有量も大幅に増加しました。具体的には、テザーの米国債ポートフォリオの価値は約976億ドルに達しています。これは、テザー(USDT)の拡大を反映しており、安定性を保つために米国債を担保として利用していることを示しています。
世界第18位の保有者: ステーブルコイン発行体全体で見ると、累積で約1200億ドルの米国債を保有しており、これは世界第18位の米国債保有量に相当します。この数字は、ドイツや韓国といった主要な経常黒字国を超える規模です。
他の主要な米国債保有者との比較:
● 日本が約1.2兆ドル
● 中国が約8700億ドル
● 英国が約6600億ドル
● アイルランドが約3100億ドル
主要国家がこれだけの米国債を保有していることを考えると、ステーブルコイン発行体は、これらの国々の保有量には及ばないものの、相当な規模で米国債を保有していることがわかります。
暗号資産(仮想通貨)の世界はまだ成長期であり、ステーブルコイン発行体全体の累積で約1200億ドルの米国債が3000億ドルや5000億ドルに迫ることは十分にあり得ます。中国は米国債の保有を削減傾向にありますので、ステーブルコイン発行体全体の累積と中国の米国債の保有残高がフラットになることもあるかもしれません。
いずれにしても、ステーブルコイン発行体は、特にテザーを中心に、米国債市場において重要なプレーヤーとなっています。その保有量は、世界の主要国と同等、あるいはそれ以上の影響力を持つ規模に達しており、米国債市場の安定性や流動性に影響を与える可能性があります。この傾向は、暗号資産の普及とその経済的影響の深化を反映しています。
3.暗号資産(仮想通貨)経済圏の様々な利回り商品がドル需要を促す
その国の為替の需要を決める一要因として、その通貨でどのような運用ができるかも一因として関係します。例えば今ドル買い・円売りのフローが起きている一因に、多くの日本国民がS&P500やオールカントリーのインデックスを購入しているということもその事例の一つです。
この観点でも暗号資産経済圏とりわけDeFi経済圏の拡大は、ドル需要に寄与しています。DeFiで様々な利回り商品が登場し、ドル運用にさらなる多様性を生み出すからです。
AMMの分散型取引所の流動性提供や、エアドロップのポイントを目的としてイールドファーミング、無期限先物での流動性参加などは、従来ではなかったドルの運用方法です。つまり暗号資産はドル運用の方法を広げて、ドルの需要を増やしているといえます。
総括
今回は暗号資産経済圏の拡大が、ドル経済の拡大につながる理由について解説しました。
暗号資産経済圏の拡大は、ドルの需要を増やし、取引量を増加させ、さらには米国の金融政策や規制が国際的に影響力を増すことで、ドル経済の拡大につながるという複数の経路があります。これらの動きは、世界経済におけるドル主導の地位を維持または拡大に寄与する構成要素、少なくともその一因がであると筆者は考えています。
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提供:HashHub Research
執筆者:HashHub Research