2025/12/08
暗号資産週間レポート(2025.11.30~2025.12.6)
日米金融政策の乖離と暗号資産価格の相関──イーサリアム「FUSAKA」後の動向と次週FOMCの焦点
【11/30~12/6週のサマリー】
・日銀の年内の利上げ観測が上昇
・米連邦準備制度理事会(FRB)による量的引き締め(QT)が終了
・資産運用大手のバンガードが暗号資産ETFの提供開始
・イーサリアムの「FUSAKA」アップグレード実施
【暗号資産市場概況】
11/30~12/6週におけるBTC/JPYの週足終値は前週比▲2.32%の13,902,100円、ETH/JPYの週足終値は同+1.04%の473,115円であった(※終値は12/6の当社現物EOD[12/7 6:59:59]レートMid値)。
先週の暗号資産市場は日銀の年内の利上げ観測と日本円のキャリートレードの巻き戻し懸念が市場全体に広がったことで週初からビットコインの価格が大きく下落する展開となった。その後、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的引き締め(QT)の終了や大手金融機関による暗号資産ETFの提供開始、イーサリアムの大型アップグレードが実施されるなど、好材料が多く重なったことで週央には一時的に価格が大きく反発する場面が見られた。しかし、週末に日銀の利上げ観測が再び高まったことでビットコインの価格は下落に転じ、前週比では下落方向に動く展開となった。
1日に、市場参加者の間で「日銀が年内に利上げへ踏み切る」との観測が強まったことを受け、日本の10年国債利回りが急騰した。日本の国債利回りの上昇は円買い圧力につながり、円を借りて高利回り資産に投資するキャリートレードの解消を促す結果となった。この動きが暗号資産市場にも波及したことでビットコインは大きく売られ、一時83,000ドル台まで急落した。また、米国株式市場も週明けは下落でオープンし、暗号資産市場だけでなく株式市場でもリスク回避の動きが広がった。
しかし、同日に米連邦準備制度理事会(FRB)の量的引き締め(QT)が終了したことに加えて、翌2日には、世界有数の資産運用会社であるバンガードが同社の取引プラットフォームで暗号資産ETFの提供を開始したことで、資金流入による期待感からビットコインの価格は急反発し、翌3日にかけて93,000ドル台まで上昇する力強い値動きを見せた。
さらに4日には、イーサリアムの大型アップグレードである「FUSAKA」が予定どおり実施された。このアップグレードはネットワーク効率や手数料構造の改善につながるとして以前から期待されており、実施後には暗号資産市場全体で買い圧力が強まった。これにより、ビットコインは一時94,000ドル台まで上昇し、イーサリアムも2日の安値から約500ドル高の3,200ドル台まで上昇するなど、主要銘柄が軒並み強い値動きを見せた。
しかし、その後にロイターが「高市政権が利上げに対する容認姿勢を示している」と報じたことで、日本の長期金利が再び上昇。これを受け、市場には再びキャリートレードの巻き戻しリスクを懸念する考えが広がり、円買い圧力の高まりとともにリスクオフムードが再燃した。これにより、ビットコインの価格は再度下落に転じ、5日には節目とみられていた90,000ドルを再び割り込む展開となった。
暗号資産の現物ETF市場の動向を見ると、週初の米連邦準備制度理事会(FRB)による量的引き締め(QT)の終了やバンガードによる暗号資産ETFの取扱開始により、一時的に現物ビットコインETFへ資金が流入したものの、その後は価格の下落に伴い資金が流出し、週次ベースでは約8,700万ドルの純流出を記録した。また、現物イーサリアムETFも「FUSAKA」が実施される前日には1億4,000万ドルの資金流入が見られたが、それ以外の日では資金流出が続き、結果として週次ベースでは6,500万ドルの純流出となり、現物ETFの資金動向からも市場心理が週を通して不安定であったことが読み取れる結果となった。
今週は連邦公開市場委員会(FOMC)の終了後に政策金利の発表が予定されており、市場関係者の大方の予想では25bpの利下げが有力視されている。日本円のキャリートレードの巻き戻しリスクが意識されるなか、日本と米国の金利差が縮小することで市場にどういった影響が表れるのかについて注目していきたい。
[BTC/USD週間チャート(30分足)]

(TradingView提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成)
[BTC/JPY週間チャート(30分足)]

(TradingView提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成)
[ビットコイン現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計、ビットコイン価格]

(緑・赤のバーが資金流入出 / 白線が運用資産残高合計/ 橙線がビットコイン価格)
(SoSoValue提供のチャートより SBI VC トレード株式会社 市場オペレーション部作成)
[イーサリアム現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計、イーサリアム価格]

(緑・赤のバーが資金流入出 / 白線が運用資産残高合計/ 青線がイーサリアム価格)
(SoSoValue提供のチャートより SBI VC トレード株式会社 市場オペレーション部作成)
【11/30~12/6週の主な出来事】

【12/7~12/13週の主な予定】

【今週のひとこと】トークン化MMF
12月4日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の3社が2026年に円建てのトークン化されたマネー・マーケット・ファンド(MMF)を発行する計画を発表しました。参画している三菱UFJアセットマネジメント株式会社、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社のプレスリリースによると、日本初となるトークン化投資信託の開発をめざし、まずはトークン化マネー・マネージメント・ファンド(以下、トークン化MMF)の基盤整備に関する協業を開始するとのことです。
マネー・マネージメント・ファンドとは、株式を組み入れず、国債や社債など信用度の高い短期金融商品で運用する公社債投資信託の一種です。トークン化とは従来の金融商品や決済手段等をブロックチェーン上で移転可能なデジタル・データ(トークン)に置き換えるプロセスです。
トークン化MMFの主なメリットは取引の高速化、低コスト化、担保・流動性の効率化の3点が挙げられます。従来の取引では営業日や時間に縛られていましたが、トークンであれば時間の制約はありません。また、入金や償還(解約)、利回り付与はスマートコントラクトでほぼ即時に実行されます。取引に係る処理コストや管理コスト等を軽減することが可能です。トークンをそのままデリバティブや融資の担保として使える場面が増えることも利便性向上に寄与します。こうした利点から海外では多くの金融商品がトークン化されており、トークン化金融商品の市場は拡大を続けています。とりわけ海外におけるトークン化MMFは既に85億ドル超規模に達しており、デジタル資産市場の中核的な存在の一つとなっています。
時を同じくして12月4日には日本の新発10年国債の利回り(長期金利)が2007年7月以来およそ18年ぶりの1.935%まで上昇しました。長らく続いた低金利環境から再び金利ある世界に戻りつつある今、MMFは余剰資金の一時的な受け皿として改めて注目されています。トークン化にもデメリットはあり、スマートコントラクトのバグやノードの停止等のリスクは存在するものの、MMFのトークン化が新しい投資の選択肢を提供することは明らかであり、今後の動向に期待が高まります。
(SBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成)
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