▼目次
1. はじめに:USDC(USD Coin)とDeFi (分散型金融)の世界へようこそ
目的と対象読者
本コラムは、中央集権型取引所(CEX)での暗号資産(仮想通貨)取引には慣れているものの、DeFi(分散型金融)については初心者である日本のユーザーを対象としています。
特に、米ドル連動型ステーブルコインであるUSDC(USD Coin)を保有し、その新たな活用方法としてDeFiでの運用に関心を持ち始めた方々に向けて、基本的な仕組み、具体的な運用方法、潜在的なメリット、そして最も重要なリスクについて、具体的かつ分かりやすく解説することを目的としています。
本コラムの位置づけ
DeFi(分散型金融)は、従来の金融システムのあり方を変える可能性を秘めた革新的な分野ですが、同時に、これまでの金融サービスには見られなかった特有のリスクも内包しています。
本コラムは、特定の金融商品や投資戦略を推奨するものではなく、あくまでDeFiの世界を理解し、安全な利用のために不可欠な知識を提供するための一助となることを目指しています。
DeFiへの参加を検討する際には、本コラムで解説するリスクを十分に理解し、ご自身の判断と責任において行動することが極めて重要です。
免責事項
DeFiプロトコルの利用や暗号資産(仮想通貨)の運用には、元本割れを含む重大なリスクが伴います。
スマートコントラクトのバグや脆弱性、ハッキング、プラットフォーム運営者の信頼性、規制環境の変化、市場の急変動、利用する暗号資産(ステーブルコインを含む)の価値変動など、予期せぬ要因によって投資した資産の大部分またはすべてを失う可能性があります。
本コラムで提供される情報は、いかなる投資助言または推奨を構成するものでもありません。
DeFiへの参加は、ご自身の判断と責任において、十分な調査(DYOR: Do Your Own Research)を行った上で行ってください。
2. USDC(USD Coin)とは?:デジタルドルの基本
米ドルペッグのステーブルコイン
USDC(USD Coin)は、その価値が常に1米ドル(USD)とおおむね等しくなるように設計・運用されている「ステーブルコイン」と呼ばれる電子決済手段です。
ステーブルコインは、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)のような多くの暗号資産が抱える価格変動(ボラティリティ)の問題を解決し、価値の安定性を目指して作られました。
USDCは、ブロックチェーン技術が持つ利便性(国境を越えた迅速かつ低コストな送金、プログラムによる自動化など)と、基軸通貨である米ドルの安定性を組み合わせることで、「デジタルドル」としての役割を果たします。
これにより、価格変動リスクを避けながらブロックチェーン上で価値を保存したり、送金・決済手段として利用したりすることが可能になります(図1)。
近年、日本国内の暗号資産取引所であるSBI VCトレードでもUSDCの取り扱いが開始されており、日本のユーザーにとってもアクセスしやすくなっています。
図1:USDCを用いた送金、決済、預金、トレード(出典:https://www.usdc.com/)
発行主体と信頼性への取り組み
USDCは、米国の有力フィンテック企業であるCircle Internet Financial社(以下、Circle社)によって発行・管理・運営されています。
Circle(サークル)社は、大手暗号資産取引所Coinbase(コインベース)社との協力のもと、2018年にUSDCをローンチし、以来、USDCを軸とした決済ソリューションやAPI提供など、デジタル通貨インフラ事業を展開しています。
図2:2025年4月10日時点におけるUSDCの準備資産比率(出典:Circle公式「Transparency」ページ)
USDCの価値の安定性を支える根幹は、その準備金の仕組みにあります。
Circle社は、発行済みのUSDC総額と同等かそれ以上の価値を持つ米ドル相当の資産を「準備金(リザーブ)」として分別管理していると説明しています(図2)。
この準備金は、現金および償還期間の短い米国財務省証券(短期米国債)など、流動性が高く安全とされる資産で構成されており、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY Mellon)といった大手金融機関がカストディアン(保管・管理)を務めています。
さらに、Circle社は透明性と信頼性を高める取り組みとして、この準備金の構成内容に関する証明書を、大手監査法人による監査を経て毎月公表しています。
こうした厳格な管理体制と情報開示への注力は、規制遵守を重視する機関投資家などからの信頼獲得にも繋がっていると考えられます。
マルチチェーン対応
USDCは当初、イーサリアムブロックチェーン上でERC-20規格のトークンとして発行されましたが、その後、利用者のニーズやエコシステムの拡大に伴い、Ethereum(イーサリアム)以外にもSolana(ソラナ)、Polygon(ポリゴン)、Avalanche(アバランチ)、Tron(トロン)など、多数のブロックチェーンネットワーク上でネイティブに発行・利用できるようになっています。
これを「マルチチェーン対応」と呼びます。
このマルチチェーン対応により、ユーザーは各ネットワークの特性(取引手数料(ガス代)の安さ、取引処理速度の速さ、対応するDeFiアプリケーションの種類など)に応じて、最適なチェーンを選択してUSDCを利用することが可能になりました。
例えば、イーサリアムのガス代が高騰している時期には、より安価な手数料で取引できるPolygonネットワーク上のUSDCを利用するといった選択肢が生まれます。
しかし、この利便性の裏側には、新たなリスクも存在します。
特にDeFi初心者にとっては、送金時に正しいネットワークを選択するという、これまでCEXではあまり意識する必要のなかった操作が求められます。
異なるネットワーク間でUSDCを送金しようとしたり、誤ったネットワークのアドレスに送金してしまったりすると、資産を永久に失ってしまう可能性があります。
したがって、USDCのマルチチェーン対応は利便性を向上させる一方で、ユーザーには利用するネットワークを正確に理解し、慎重に操作することが求められるという側面も持ち合わせています。
3. DeFi(分散型金融)とは?:新しい金融の形
図3:DeFi(分散型金融)とは?(出典:筆者作成)
中央管理者のいない金融システム
DeFi(分散型金融/ディーファイ)とは、Decentralized Finance(分散型金融)の略称で、銀行、証券会社、取引所といった従来型の金融機関(中央集権的な管理者)を介さずに、金融サービスを提供・利用しようとする試み、またはそのエコシステム全体を指す言葉です。
DeFiの世界では、個人間(P2P)または個人とプログラム(スマートコントラクト)の間で、貸付、借入、交換(スワップ)、保険といった様々な金融取引が直接行われます。
これらの取引のルールや実行は、ブロックチェーン上に記録された「スマートコントラクト」と呼ばれるプログラムコードによって自動的に管理・執行されます。
例えば、「特定の条件が満たされた場合に、AからBへ自動的に送金する」といった契約をプログラム化し、人の手を介さずに実行することが可能です。
主要な特徴
DeFiは、従来の金融システム(CeFi: Centralized Finance)と比較して、以下のような特徴を持っています。
- 透明性: DeFiプロトコルにおける取引の記録やスマートコントラクトのコードは、基盤となるブロックチェーン(多くはパブリックブロックチェーン)上に公開されており、原則として誰でも閲覧・検証することが可能です。これにより、取引の透明性が高く、データの改ざんが極めて困難であるとされています。
- 自己管理: DeFiを利用する際、ユーザーは通常、自身の「秘密鍵」を用いて暗号資産ウォレットを管理します。これは、銀行口座のように金融機関に資産を預ける(Custodial)のではなく、ユーザー自身が資産の所有権と管理責任を持つ(Non-Custodial / Self-Custody)ことを意味します。
- アクセス性: DeFiサービスは、特定の国や地域、個人の属性(信用情報など)による制限を受けにくく、インターネット接続と対応ウォレットがあれば、原則として世界中の誰でも利用できる可能性があります。これは金融包摂の観点からも注目されています。
- プログラム可能性: スマートコントラクトを活用することで、既存の金融商品を組み合わせたり、全く新しい金融サービスを創造したりすることが可能です。レンディング、DEX(分散型取引所)、デリバティブ、イールドファーミング(流動性マイニング)など、多様なアプリケーションが登場しています。
- 効率性・低コストの可能性: 仲介機関を排除し、プロセスを自動化することで、理論的には取引手数料を低く抑え、サービス提供を迅速化できる可能性があります。ただし、後述するように、ブロックチェーンのネットワーク手数料(ガス代)は変動するため、常に低コストであるとは限りません。
- 24時間365日稼働: スマートコントラクトはプログラムによって自動実行されるため、銀行の営業時間のような制約がなく、原則としていつでもサービスを利用できます。
DeFiが持つこれらの特徴、特に「誰でもアクセス可能」というオープンな性質は、金融サービスをより多くの人々に届ける可能性を秘めています。
しかし、この開放性は、規制当局から見ると、マネーローンダリングやテロ資金供与対策(AML/CFT)、そして利用者保護の観点から大きな課題を提示します。
匿名性の高い取引が可能であり、従来の金融機関のような本人確認(KYC)プロセスが必須でない場合が多いため、不正利用のリスクが指摘されています。
各国規制当局はこの問題に対処しようとしていますが、DeFiの分散化された国境のない性質は、既存の規制枠組みの適用を困難にしています。
結果として、ユーザーはイノベーションの恩恵を享受できる可能性がある一方で、法的な保護が不十分であったり、規制の変更によって利用環境が変化したりするリスクに常に晒されることになります。
4. USDC(USD Coin)をDeFi(分散型金融)で運用する魅力と注意点
魅力:高い利回りの可能性
DeFiが注目を集める大きな理由の一つは、USDCのようなステーブルコインを運用することで、従来の金融商品やCEXが提供する類似サービス(例:定期預金、セービングアカウント)と比較して、潜在的により高い利回りを得られる可能性がある点です。
DeFiのレンディングプラットフォームや流動性提供においては、年利換算で数パーセントから、市場環境や利用するプロトコルによっては10%を超える利回りが提示されることも珍しくありません。
特に、伝統的な金融市場で低金利が続く状況下では、この高利回りは魅力的に映るでしょう。
なぜ高利回りが可能なのか? その背景にはいくつかの要因が考えられます。
- 構造的な効率性: 銀行のような仲介機関が存在せず、スマートコントラクトによって多くのプロセスが自動化されているため、運営コストが低く抑えられ、その分を利回りとしてユーザーに還元できる可能性があります。
- 高い資金需要: DeFiエコシステム内では、レバレッジ取引、アービトラージ、新たなプロジェクトへの投資など、様々な目的でUSDCのような安定した価値を持つ資産を借りたいという強い需要が存在します。この高い借入需要が、貸し手(USDC供給者)への貸出金利を押し上げる要因となります。
- インセンティブ設計(イールドファーミング): 多くのDeFiプロトコルは、自身のプラットフォームへの参加や流動性の提供を促すために、独自の「ガバナンストークン」などを報酬としてユーザーに配布します。これをイールドファーミングや流動性マイニングと呼びます。ユーザーはUSDCを預けることで得られる基本的な利息に加え、これらの報酬トークンを受け取ることができ、これが実質的な利回りをさらに高める要因となります。ただし、これらの報酬トークンの価値は市場で大きく変動する可能性があり、保証されたものではありません。
しかし、注意すべき点として、DeFiで提示される高利回りは、単に「お得な」金利というわけではありません。
それは多くの場合、後述する様々なリスク(スマートコントラクトのバグ、ハッキング、プラットフォームの信頼性、市場変動など)を引き受けることに対する対価(リスクプレミアム)と、プロトコルが成長のために一時的に提供しているインセンティブ(トークン配布)が組み合わさった結果です。
利回りの高さだけに注目し、その源泉や伴うリスクを理解せずに投資することは非常に危険です。高利回りの裏には相応のリスクが存在するという認識を持つことが重要です。
注意点:DeFi(分散型金融)運用に伴う様々なリスク
DeFi運用は魅力的なリターンの可能性を秘める一方で、従来の金融サービスとは異なる、多様かつ重大なリスクを伴います。
USDCを用いた運用においても、これらのリスクを十分に理解し、対策を講じることが不可欠です。
● スマートコントラクトリスク :
DeFiサービスの根幹をなすスマートコントラクトは、プログラムコードによって記述されています。このコードに意図しないバグや設計上の欠陥、脆弱性が含まれている場合、悪意のある攻撃者によって悪用され、プロトコルに預けられたユーザーの資金が不正に引き出されたり、プロトコルが機能不全に陥ったりする可能性があります。リエントランシー攻撃(Reentrancy Attack)などは、過去に多くのDeFiプロトコルで被害を引き起こした代表的な脆弱性の一つです。
ブロックチェーンの特性上、一度デプロイ(配備)されたスマートコントラクトを修正することは困難または不可能な場合が多く、問題が発見されても迅速な対応が難しいケースがあります。信頼できる第三者の専門企業によるスマートコントラクトの監査(Audit)を受けているかどうかを確認することは、リスクを評価する上で重要な要素ですが、監査はあくまで特定の時点でのチェックであり、将来にわたってバグや脆弱性が存在しないことを保証するものではありません。
● プラットフォームリスク:
DeFiプロトコルはコードによって自律的に動くことを目指しますが、その開発・運営には人間が関与しています。運営チームが悪意を持ってユーザーから集めた資金を持ち逃げする「ラグプル(Rug Pull)」と呼ばれる詐欺行為のリスクが存在します。また、運営上のミスやガバナンス(意思決定プロセス)の問題が、プロトコルの安定性やユーザーの資産に影響を与える可能性もあります。
さらに、多くのDeFiプロトコルは、外部から価格情報などを取得するために「オラクル」と呼ばれるサービスを利用しています。このオラクルが不正な価格情報を提供したり、攻撃されたりすると、プロトコル内で不当な取引や清算(後述)が実行されてしまうリスクがあります。
加えて、DeFiプロトコル自体や、ユーザーが利用するウォレット、それらをつなぐインターフェースなどがハッキングやサイバー攻撃の標的となるリスクも常に存在します。実際に、DeFiプロトコルを狙ったハッキングによる資金流出事件は後を絶ちません。近年、セキュリティ対策の進展により被害額の割合が減少傾向にあるとの報告(図4)もありますが、依然として警戒が必要です。
図4:2024年のDeFiとCeFiの損失額(出典:The Hacken 2024 Web3 Security Report)
● 規制の不確実性リスク:
DeFiは急速に発展してきた新しい分野であり、多くの国や地域において、法規制の整備が追いついていないのが現状です。今後、各国政府や規制当局がDeFiに対する規制を強化した場合、特定のサービスの利用が制限されたり、プロトコルの運営方針が変更されたり、あるいはサービス自体が停止に追い込まれたりする可能性があります。
日本の金融庁を含む世界の規制当局は、DeFiがもたらすリスク(マネーローンダリング、テロ資金供与、利用者保護の欠如など)を注視しており、国際的な協調も含めて規制のあり方を検討しています。DeFiの持つ分散性や匿名性、国境を越える性質は、従来の金融規制の枠組みを適用することを困難にしており、この構造的な問題が規制の不確実性を長期化させる要因となっています。ユーザーは、利用するプロトコルが将来的な規制動向にどのように対応していく可能性があるのか、あるいは規制を無視するリスクを取っているのかを考慮する必要があります。
● ステーブルコイン固有のリスク:
USDCは米ドルとの価値の連動(ペッグ)を目指すステーブルコインですが、それ自体にもリスクが存在します。
- デペッグリスク: USDCの価値が1米ドルから大きく乖離してしまうリスクです。これは、暗号資産市場全体の極端な価格変動、発行体であるCircle社に対する信用不安(例:準備金の不足疑惑、規制当局による措置)、あるいはUSDCが利用されているDeFiプロトコルでの大規模なハッキングなど、様々な要因によって引き起こされる可能性があります。過去には、TerraUSD(UST)のようなアルゴリズム型ステーブルコインだけでなく、USDCと同じ法定通貨担保型とされるTether(USDT)でさえも、UST崩壊による市場の混乱時に一時的にペッグが揺らいだ事例があります。
- 準備金リスク: USDCの価値の裏付けとなる準備金の管理に関するリスクです。Circle(サークル)社が公表している準備金の内容や監査結果が信頼できない、あるいは準備金の運用に失敗した場合、USDCの信用が失われ、デペッグにつながる可能性があります。Circle社は透明性を強調していますが、ユーザーはこのリスクを完全に排除することはできません。
- カウンターパーティリスク: USDCの発行と管理は、Circle社という単一の企業に依存しています。これは中央集権的な要素であり、Circle社の経営状況が悪化したり、破綻したり、あるいは規制当局から事業停止命令を受けたりした場合、USDCの価値や償還可能性に直接的な影響が及ぶリスクがあります。
● 運用方法固有のリスク:
DeFiでの具体的な運用方法にも、それぞれ特有のリスクが伴います。
- 清算リスク(レンディング): DeFiレンディングプラットフォームで、他の暗号資産(例:ETH)を担保にしてUSDCを借り入れる場合、担保として預けた暗号資産の市場価格が下落すると、担保価値が借入額に対して一定の割合(清算閾値)を下回ってしまうことがあります。この状態になると、プラットフォームは貸し倒れを防ぐために、預けられている担保を強制的に売却して借入金を回収します。これを「清算(Liquidation)」と呼びます。清算時には通常、追加のペナルティ手数料が課されるため、担保資産の一部または全部を失うことになります。担保価値の急落だけでなく、借り入れているUSDCの価値が(例えばデペッグからの回復などで)急上昇した場合にも、相対的に担保価値が不足し、清算リスクが高まる可能性があります。
- 変動損失リスク(流動性提供): DEX(分散型取引所)の流動性プールに、USDCと他の暗号資産(例:ETH)のペアで資産を提供する場合、「変動損失(Impermanent Loss, IL)」と呼ばれる特有のリスクに晒されます。これは、流動性プールに資産を預け入れた時点と比較して、2つの資産の価格比率が変動した場合に発生します。価格変動が大きいほど、変動損失も大きくなる傾向があります。具体的には、一方の資産価格が大きく上昇または下落した場合、AMM(自動マーケットメーカー)の仕組みによって、価格が上昇した資産の保有量が減り、価格が下落した資産の保有量が増えるように自動的にリバランスされます。その結果、流動性提供を解除して資産を引き出す際に、もし当初のまま2つの資産を単に保有し続けていた場合(HODL)と比較して、資産全体の価値が少なくなってしまう現象です。この損失は、価格比率が預け入れ当初の状態に戻れば理論上は解消されるため「Impermanent(一時的)」と呼ばれますが、価格が戻らないまま引き出した場合は、損失が確定(Permanent)します。USDCのようなステーブルコイン同士のペア(例:USDC/DAI)で流動性を提供する場合、価格変動が小さいため変動損失リスクは大幅に軽減されますが、どちらかのステーブルコインがデペッグすれば、大きな変動損失が発生する可能性があります。流動性提供によって得られる取引手数料収入が、この変動損失を上回らなければ、トータルで損失を被ることになります。
- 金利変動リスク(レンディング): 主なレンディングプラットフォームでUSDCを貸し出す場合、得られる利息(貸出金利)は固定ではなく、常に変動します。金利は通常、そのプラットフォームにおけるUSDCの需要(借りたい人の割合)と供給(貸している人の割合)のバランスを示す「利用率(Utilization Rate)」に基づいて、アルゴリズムによって自動的に決定されます。市場の状況によって利用率が変動すれば、金利も上下するため、期待していた利回りが得られない可能性があります。同様に、USDCを借り入れる場合も、借入金利が予期せず急上昇するリスクがあります。
これらのリスクは、それぞれ独立して存在するだけでなく、相互に関連し、連鎖的に影響を及ぼし合う可能性があることを理解しておく必要があります。
例えば、あるDeFiプロトコルのスマートコントラクトに脆弱性が見つかり、ハッカーによって大量の資金が盗まれたとします。
その結果、盗まれたトークンが市場で大量に売却され、価格が暴落します。もしそのトークンが他のレンディングプラットフォームで担保として広く利用されていた場合、担保価値の急落によって連鎖的な清算が発生する可能性があります。
また、そのトークンを含むペアで流動性を提供していたユーザーは、大きな変動損失を被るでしょう。
さらに、このような事件はプロトコルや暗号資産市場全体への信頼を揺るがし、他のユーザーによる資金引き揚げ(取り付け騒ぎのような状況 )を誘発し、流動性の枯渇やさらなる価格下落を招く可能性もあります。
このように、一つのリスクが他のリスクを引き起こし、増幅させることで、予期せぬ大きな損失につながる可能性があるのがDeFiの複雑な側面です。
5. 初心者向け:USDC(USD Coin)の代表的なDeFi(分散型金融)運用方法
DeFiの世界には多種多様な運用戦略が存在しますが、ここではUSDCを活用でき、比較的その仕組みが理解しやすいとされる代表的な方法として、「レンディングプラットフォームでの貸し出し」と「DEX(分散型取引所)での流動性提供」の2つを紹介します。
レンディングプラットフォームでの貸し出し
これは、USDCを保有しているユーザーが、それを借りたいユーザーに対して貸し出すことで利息収入を得る方法です。
AaveやCompoundといった代表的なレンディングプラットフォームがこのサービスを提供しています。
図5:AaveにおけるUSDC貸出の状況を示す画面(出所:Aaveアプリ)
- 仕組み: ユーザーは、自身のウォレットをレンディングプラットフォームに接続し、保有するUSDCをプラットフォームに預け入れ(SupplyまたはDeposit)ます。預け入れられたUSDCは、他のユーザーが借り入れるための資金プールの一部となります。USDCを借り入れたいユーザー(Borrower)は、通常、他の暗号資産(例:ETH、WBTCなど)を担保として預け入れ、その担保価値の範囲内でUSDCを借り入れます。プラットフォームは、スマートコントラクトを用いて、貸し手への金利支払いと借り手からの金利徴収を自動的に管理します。銀行預金と似ていますが、仲介する金融機関が存在せず、ルールがプログラムによって透明に実行される点が異なります。
- 利回り: 貸し手が受け取る金利(年利、APY)は、主にそのプラットフォームにおけるUSDCの「利用率(Utilization Rate)」、つまり預け入れられている総USDCのうち、どれだけの割合が借り入れられているかによって決まります。一般的に、USDCを借りたいという需要が高まり、利用率が上昇すると、貸し手の金利も上昇する傾向があります。提示される金利は常に変動しており、市場環境によって左右されますが、年利数パーセント程度が一般的です。
- リスク: この方法に伴う主なリスクは、スマートコントラクトリスク(コードのバグや脆弱性)、プラットフォームリスク(運営の信頼性、ハッキング)、金利変動リスク(期待通りの利息が得られない可能性)、そしてUSDC自体のデペッグリスク(USDCの価値が1ドル未満になる可能性)です。USDCを貸し出すだけの場合、直接的な変動損失や清算のリスクはありません。しかし、もし利用しているプラットフォームがハッキング被害に遭ったり、運営が破綻したり、あるいはUSDCの価値が暴落したりした場合には、預けたUSDCが全損となる可能性もゼロではありません。
- 具体例(概念): AaveやCompoundのようなプラットフォームでは、USDCを預け入れると、その証明として「aUSDC」や「cUSDC」といった別のトークンがウォレットに付与されます。これらのトークンは、預け入れたUSDC元本とその利息に対する請求権を表しており、保有しているだけで利息が自動的に蓄積されていきます。後日、このaUSDCやcUSDCをプラットフォームに返すことで、元のUSDCと増えた利息分を引き出すことができます。
DEXでの流動性提供
これは、UniswapやCurveのようなDEX(分散型取引所)に対して、USDCと他の暗号資産をペアで預け入れ、そのペアの取引(スワップ)を促進する見返りとして、取引手数料の一部を報酬として得る方法です 。
図6:Uniswap v3におけるUSDC/ETHペアの流動性提供画面(出所:Aaveアプリ)
- 仕組み: 多くのDEXは、「AMM(Automated Market Maker:自動マーケットメーカー)」と呼ばれるアルゴリズムを用いて取引を仲介します。AMMでは、ユーザーは特定の通貨ペア(例:USDC/ETH)の資産を「流動性プール」と呼ばれるスマートコントラクトに預け入れます。この預け入れ行為が「流動性提供」であり、提供者は「流動性プロバイダー(LP)」と呼ばれます。他のユーザーがそのペアのトークンを交換(スワップ)したい場合、この流動性プールを相手に取引を行います。LPは、プール内の取引を円滑にする、いわば市場の「マーケットメーカー」としての役割を担い、その対価として、取引を行ったユーザーが支払う手数料の一部を受け取ることができます。
- 利回り: 主な収益源は、自身が流動性を提供しているプールで発生した取引手数料の分配分です。そのプールの取引量が多ければ多いほど、得られる手数料収入も増加する可能性があります。加えて、一部のDEXでは、流動性提供者に対してインセンティブとして独自のトークンを配布する「イールドファーミング」や「流動性マイニング」と呼ばれるプログラムを実施している場合があります。これにより、手数料収入に加えてさらなるリターンを得られる可能性がありますが、報酬トークンの価値は不安定です。
- リスク: スマートコントラクトリスク、プラットフォームリスク、USDCのデペッグリスクに加えて、流動性提供に特有の重要なリスクとして「変動損失(Impermanent Loss)」が存在します。これは前述の通り、提供したペアの資産価格比率が変動することで、単に資産を保有していた場合よりも不利になる可能性があるリスクです。
- ステーブルコインペアの活用: 変動損失は、ペアを組む2つの資産間の価格変動が大きいほど顕著になります。そのため、DeFi初心者にとっては、価格変動が比較的小さいとされるステーブルコイン同士のペア(例:USDC/DAI、USDC/USDTなど)で流動性を提供することが、変動損失リスクを抑えるための一つの戦略として考えられます。Curve FinanceというDEXは、特にステーブルコイン同士の交換に特化しており、低いスリッページ(価格のずれ)での取引と、ステーブルコインLP向けの効率的な運用機会を提供することを目指しています。ただし、ステーブルコイン同士のペアであっても、どちらか一方または両方がデペッグを起こせば価格比率は大きく変動し、結果として変動損失が発生する可能性は依然として残ります。
流動性提供は、レンディングのように単に資産を預けて利息を受け取る受動的な運用とは異なり、市場に対して流動性(取引の相手方)を提供するという、より能動的な「マーケットメイク」行為に近い側面を持ちます。
その見返りとして取引手数料を得られますが、同時に市場の価格変動リスク(変動損失という形で現れる)を直接引き受けることになります。
ステーブルコインペアはこのリスクを軽減する効果がありますが、完全に排除するものではありません。
この手数料収入と変動損失リスクのトレードオフの関係性を理解することが、流動性提供を行う上で極めて重要です。
6. DeFi(分散型金融)運用を始めるための準備
図7:DeFi運用を始めるための準備(出典:筆者作成)
DeFiの世界に足を踏み入れるためには、いくつかの準備が必要です。
CEXでの取引とは異なる点が多く、特に以下の要素はDeFiを利用する上での基礎となります。
自己管理型ウォレットの準備
DeFiサービスを利用するためには、まず「自己管理型ウォレット(Self-Custody Wallet または Non-Custodial Wallet)」と呼ばれるタイプの暗号資産(仮想通貨)ウォレットを用意する必要があります。
これは、CEXが提供するアカウント内のウォレットとは異なり、ユーザー自身がウォレットの「秘密鍵(Private Key)」を管理するものです。
秘密鍵は、そのウォレット内の資産に対する完全なアクセス権とコントロール権を意味します。
代表的な自己管理型ウォレットとしては、「MetaMask(メタマスク)」が広く利用されています。
MetaMaskは、Webブラウザの拡張機能やスマートフォンアプリとして提供されており、多くのDeFiアプリケーションとの連携が容易です。
※ウォレット作成時の最重要事項:秘密鍵とシークレットリカバリーフレーズの管理
ウォレットを新規作成する際には、通常12語または24語からなる「シークレットリカバリーフレーズ(Secret Recovery Phrase、SRP、シードフレーズとも呼ばれる)」が生成・表示されます。
このフレーズは、秘密鍵そのものであり、ウォレットを復元するための唯一の手段です。
- 絶対に他人に教えてはいけません。 これを知られると、ウォレット内の全資産を盗まれてしまいます。
- 絶対に失くしてはいけません。 これを紛失すると、デバイスの故障や紛失時にウォレットを復元できなくなり、資産に永久にアクセスできなくなります。
- 安全な方法で、オフラインで保管してください。 紙に正確に書き写し、他人の目に触れない、かつ火災や水害などからも安全な場所に保管することが強く推奨されます。デジタルデータ(PCのファイル、クラウドストレージ、メールなど)として保存することは、ハッキングのリスクがあるため避けるべきです。
取引所からのUSDC(USD Coin)送金
CEX(中央集権型取引所)で購入・保有しているUSDCを、上記で準備した自己管理型ウォレットに送金(出金)する必要があります。
この際、CEXの出金画面で、送金先のウォレットアドレスを入力し、送金する数量を指定します。
※最重要注意点:ネットワーク(ブロックチェーン)の選択
USDCは、イーサリアム(ERC-20)、ポリゴン(Polygon)、ソラナ(Solana)、アバランチ(Avalanche)など、複数のブロックチェーンネットワーク上で利用可能です。
送金を行う際には、送金元のCEXが対応しているネットワークと、送金先の自己管理型ウォレットで受け取りたいネットワーク、そして最終的に利用したいDeFiプラットフォームが稼働しているネットワークがすべて一致していることを確認する必要があります。
例えば、CEXから「Polygonネットワーク上のUSDC」を送金したい場合、MetaMaskなどの受け取りウォレット側でも「Polygonネットワーク」を選択し、そのネットワークに対応する自身のウォレットアドレスを指定しなければなりません。
もし誤って「イーサリアム(ERC-20)ネットワーク」のアドレスを指定して送金してしまうと、送金したUSDCは意図したウォレットには届かず、最悪の場合、永久に失われてしまう可能性があります。
CEXの出金画面では、通常、送金する暗号資産(USDC)と合わせて、利用する「ネットワーク(チェーン)」を選択する項目があります。
ここで正しいネットワーク(例:「Polygon」、「ERC20」、「ETH」など、取引所によって表記は異なります)を選択することが極めて重要です。
もし確信が持てない場合は、まず少額のUSDCでテスト送金を行い、意図したウォレット・ネットワークに着金するかどうかを確認することを強く推奨します。
CEXの便利なインターフェースに慣れていると、ユーザーは裏側で動いているブロックチェーンネットワークを意識することは少ないかもしれません。
しかしDeFiでは、ユーザー自身がこれらのネットワークを直接操作することになります。
USDCが「どのチェーン上で発行されたUSDCなのか」を常に意識し、ネットワーク選択を慎重に行うことは、DeFi初心者が最初に乗り越えるべき重要なハードルの一つです。
このステップでのミスは、取り返しのつかない損失に直結する可能性があります。
ガス代(ネットワーク手数料)の理解
ブロックチェーン上で何らかの取引(トランザクション)を実行する際には、その処理を行うネットワーク参加者(イーサリアムのPoS移行後はバリデーターと呼ばれる)に対して手数料を支払う必要があります。
この手数料は一般的に「ガス代(Gas Fee)」と呼ばれます。
ガス代は、トランザクションの検証・承認作業に対する報酬であり、通常、そのブロックチェーンの基軸となるネイティブトークンで支払われます。
例えば、イーサリアムネットワーク上での取引にはETHが、Polygonネットワーク上での取引にはPOL(旧MATIC)が必要となります。
ガス代の金額は固定ではなく、主に以下の要因によって変動します。
- ネットワークの混雑状況: ネットワーク上で多くの取引が処理されている(混雑している)時ほど、ガス代は高騰する傾向があります。
- 取引の複雑さ: 単純な送金よりも、DeFiプロトコルとの対話(預け入れ、引き出し、スワップなど)のように、より多くの計算処理を必要とするトランザクションの方が、ガス代は高くなる傾向があります。
DeFiでUSDCを運用する場合、USDCそのものだけでなく、これらのガス代を支払うためのネイティブトークン(ETHやPOLなど)も、あらかじめ自己管理型ウォレットに少量送金しておく必要があります。
ガス代が不足していると、DeFiプラットフォームでの操作(預け入れ、引き出しなど)を実行することができません。
特にネットワークが混雑している時間帯には、ガス代が非常に高額になることがあり、少額の運用を考えている場合には、ガス代だけで利益が相殺されてしまう、あるいは元本を割り込んでしまう可能性もあります。
ガス代を節約するためには、ネットワークが比較的空いているとされる時間帯(一般的に週末や特定の時間帯が挙げられますが、常にそうとは限りません)を狙って取引を行う、あるいは元々ガス代が安価であるとされるPolygonのようなレイヤー2ネットワークや他のブロックチェーンを利用する、といった工夫が考えられます。
7. 安全にDeFi(分散型金融)を利用するための重要注意点
図8:安全にDeFiを利用するための重要注意点(出典:筆者作成)
DeFiは革新的な金融サービスへのアクセスを提供する一方で、利用者が負うべき責任と注意すべき点が数多く存在します。
安全にDeFiを利用するためには、以下の点を常に念頭に置く必要があります。
自己責任の原則
DeFiの最大の特徴の一つは、中央集権的な管理者が存在しないことです。
これは自由度と透明性の高さにつながる反面、何か問題が発生した場合に頼れる管理者やサポートセンターが存在しないことを意味します。
CEXであれば、操作ミスやシステム障害時にカスタマーサポートに相談したり、場合によっては補償を受けられたりする可能性がありますが、DeFiでは基本的にすべてが自己責任となります。
誤操作による資産の喪失、スマートコントラクトのバグによる損失、フィッシング詐欺被害など、いかなる結果もユーザー自身が受け入れる必要があります。
秘密鍵・シードフレーズの厳重管理
自己管理型ウォレットのセキュリティは、秘密鍵(またはそれを復元するためのシークレットリカバリーフレーズ/シードフレーズ)の管理にかかっています。
これはDeFiを利用する上での生命線であり、その管理は最重要事項です。
- 絶対に誰にも教えない: 家族、友人、同僚はもちろん、いかなるサービスのサポート担当者を名乗る人物に対しても、絶対に教えてはいけません。MetaMaskなどの公式サポートがユーザーにシードフレーズを尋ねることは絶対にありません。
- デジタルでの保管は避ける: コンピューターのファイル、スマートフォンのメモ帳、クラウドストレージ、メールの下書きなど、インターネットに接続される可能性のある場所にデジタルデータとして保存することは、ハッキングやマルウェア感染のリスクに常に晒されるため、極めて危険です。パスワード付きファイルや暗号化も完全な対策にはなりません。スクリーンショットを撮るのも避けるべきです。
- 物理的な媒体で、安全な場所に保管: 最も推奨される方法は、紙などの物理的な媒体に正確に書き写し、それを他人の目に触れず、かつ火災や水害などの物理的な脅威からも保護できる場所に保管することです。例えば、耐火・防水性の金庫などが考えられます。さらにリスクを分散するために、複数の場所に分けて保管することも有効な手段です。金属製のプレートに刻印するといった方法もあります。
フィッシング詐欺への警戒
DeFiユーザーを狙ったフィッシング詐欺は非常に巧妙化しており、常に警戒が必要です。
- 偽のウェブサイトやアプリケーション: 有名なDeFiプラットフォームやウォレットの公式サイトを模倣した偽サイトに誘導し、ウォレット接続や秘密鍵、シードフレーズの入力を促す手口が一般的です。URLのスペルが一文字だけ違う、デザインが微妙に異なるなどの点に注意し、必ず公式サイトのブックマークや信頼できる情報源からのリンクを利用するようにしてください。
- SNSやダイレクトメッセージ(DM)での誘い: X(旧Twitter)、Discord、Telegram(テレグラム)などのSNS上で、「高利回りを保証する」「限定エアドロップ(無料配布)」「人気のNFTをプレゼント」といった魅力的な言葉でユーザーを誘い、偽サイトへのリンクをクリックさせたり、ウォレット接続を要求したりする詐欺が多発しています。特に、「うますぎる話」には裏があると疑う姿勢が重要です。
- 不審なトランザクション承認要求: DeFiプラットフォームを利用する際、ウォレットは様々なトランザクション(取引)の承認を求めてきます。その際に表示される内容(どの資産を、どこへ、どれだけ移動させるのか、どのような権限をスマートコントラクトに与えるのか等)を注意深く確認する習慣をつけてください。よく理解できないまま承認してしまうと、意図せず資産を送金してしまったり、ウォレット内の全資産へのアクセス権限を悪意のあるコントラクトに与えてしまったりする可能性があります。
DYOR (Do Your Own Research) の徹底
「Do Your Own Research(自分で調査する)」は、暗号資産(仮想通貨)やDeFi(分散型金融)の世界における鉄則です。
他人の情報や推奨を鵜呑みにせず、自分自身で情報を収集し、リスクを評価することが不可欠です。
● プラットフォームの信頼性調査: 新しいDeFiプロトコルを利用する前には、以下のような点を調査・確認することが推奨されます。
- スマートコントラクト監査 (Audit): 信頼できる第三者のセキュリティ専門企業による監査を受けているか?監査レポートは公開されているか?どのような指摘事項があり、それらは修正されているか?
- 開発チーム: チームメンバーの身元は公開されているか?彼らの経歴や過去の実績は信頼できるものか? 匿名チームの場合は、より慎重な評価が必要です。
- ドキュメント: プロジェクトの目的、仕組み、技術的な詳細、リスク要因などを説明したホワイトペーパーや公式ドキュメントが、明確かつ包括的に提供されているか?
- コミュニティ: DiscordやTelegramなどの公式コミュニティは存在するか?活発に議論が行われているか?開発チームはコミュニティからの質問や懸念に誠実に対応しているか?
- 運用実績と歴史: プロジェクトはどのくらいの期間、安定して運営されているか?過去にハッキング被害や重大なトラブルを起こしていないか?
- トークノミクス: プロジェクト独自のトークンが存在する場合、その発行・配布計画(トークノミクス)は適切か?トークンが一部のアドレスに極端に集中していないか?インセンティブ設計は持続可能なものか?
● 情報源の精査: SNS上のインフルエンサーの発言や、オンライン記事、コミュニティでの評判などを参考にする場合でも、その情報が正確か、客観的か、発信者の意図は何か、といった点を批判的に吟味し、複数の情報源を比較検討することが重要です。
ウォレット接続とトークン承認の管理
- ウォレット接続の管理: DeFiプラットフォームを利用しなくなった後も、ウォレットとの接続が維持されたままになっていることがあります。セキュリティの観点から、定期的にウォレットの設定を確認し、現在利用していないサイトや、身に覚えのないサイトとの接続は解除しておくことが推奨されます。MetaMaskなどのウォレットには、接続中のサイトを一覧表示し、個別に接続を解除する機能が備わっています。
- トークン承認の管理: DeFiプラットフォームで資産を操作する際に「承認(Approve)」したトークンへのアクセス権限は、明示的に取り消さない限り有効なまま残ることがあります。過去に利用したプラットフォームが将来ハッキングされた場合などに、この残存した承認が悪用されるリスクがあります。定期的に、自身が過去にどのようなトークン承認を行ったかを確認し、不要になったものや、不審なコントラクトへの承認は「取り消し(Revoke)」するべきです。Etherscan(イーサスキャン)などのブロックチェーンエクスプローラーには、特定のアドレスが行ったトークン承認を一覧表示し、取り消し操作を支援するツールが提供されている場合があります。
DeFiのセキュリティは、プロトコル側の技術的な安全性(コードの品質、監査の有無など)と、ユーザー自身の知識・行動(秘密鍵の管理、フィッシング詐欺への対策、DYORの実践など)の両輪によって成り立っています。
特に、中央管理者が存在しないDeFiにおいては、ユーザー側のリテラシーと慎重な行動が、自身の資産を守る上で決定的な役割を果たします。
「トラストレス(Trustless)」、つまり特定の仲介者を信頼する必要がない、としばしば表現されるDeFiですが、実際には、スマートコントラクトのコード、プロトコルの設計、オラクルの提供する情報、そして自分自身の判断といった、様々な要素を「信頼」しなければ成り立ちません。
そして、その信頼が裏切られる(コードにバグがある、情報が操作される、自分の判断が間違う)リスクと常に向き合い、そのリスクを管理していく必要があるのです。
8. DeFi(分散型金融)運用 vs 取引所の類似サービス比較
USDCのようなステーブルコインで利回りを得る方法は、DeFiだけに限りません。
多くのCEX(中央集権型取引所)も、「ステーキング」、「セービング」、「レンディング」といった名称で、ユーザーが保有する暗号資産(仮想通貨)を預け入れることで利息を得られるサービスを提供しています。
DeFi運用を検討する際には、これらのCEXサービスとの違いを理解し、自身の目的やリスク許容度に合った方法を選択することが重要です。
以下に、USDCの運用におけるDeFi(レンディングや流動性提供を想定)とCEXの類似サービスを、いくつかの観点から比較します。
表:DeFi運用 vs 取引所の類似サービス比較(出所:筆者作成)
この比較からわかるように、DeFiとCEXのどちらを選択するかは、単に利回りの高低だけで決まるものではありません。
それはむしろ、「誰、あるいは何を信頼の基盤とし(中央集権的な企業か、分散的なコードか)、どのような種類のリスクを受け入れ(カウンターパーティリスクか、スマートコントラクトリスクか)、そして、どれだけの学習コストと手間を許容できるか」という、個々のユーザーの価値観や状況に応じたトレードオフの選択です。
DeFiは、より高い潜在的リターン、資産の自己管理、透明性といった魅力を持つ代わりに、ユーザー自身がより多くのリスクと責任を負い、高度な知識と慎重さが求められます。
一方、CEXのサービスは、利便性、使いやすさ、そして(規制下にあることによる)ある程度の安心感を提供する代わりに、運営主体である取引所への依存(カウンターパーティリスク)と、一般的にDeFiよりも低いリターンを受け入れることになります。
どちらが絶対的に優れているというわけではなく、それぞれの特性を理解した上で、自分に合ったアプローチを選択することが重要です。
9. まとめ:DeFi(分散型金融)運用の第一歩を踏み出すために
DeFiの可能性とリスクの再確認
本コラムで見てきたように、USDC(USD Coin)を用いたDeFi(分散型金融)運用は、従来の金融サービスやCEXが提供するサービスを上回る魅力的な利回りを提供する可能性があります。
しかし、その可能性は、スマートコントラクトの脆弱性、ハッキング、プラットフォーム運営者の信頼性、規制の不確実性、ステーブルコインのデペッグリスク、変動損失や清算リスクといった、多様かつ重大なリスクと常に隣り合わせであることを忘れてはなりません。
自己責任と継続学習の重要性
DeFiの世界では、中央の管理者に頼ることはできません。
あなた自身の資産を守るためには、自らの知識、判断、そして行動にかかっています。
本コラムで解説したリスクや注意点を理解することは、その第一歩に過ぎません。
DeFiの技術やトレンド、そしてリスクは常に変化しています。安全に利用し続けるためには、信頼できる情報源から常に最新情報を収集し、リスクについて学び続ける姿勢が不可欠です。
慎重なスタートの推奨
もしDeFi運用を試してみたいと考えるのであれば、まずは失っても生活に影響のない、ごく少額の資金から始めることを強く推奨します。
実際に操作を体験し、その仕組み、手数料(ガス代)、そして潜在的なリスクを肌で感じながら、十分に理解を深めてから、徐々に経験を積んでいくことが賢明です。最初から大きな資金を投じることは、予期せぬ損失を招く可能性を高めます。
最終免責事項
本コラムは、USDCを用いたDeFi運用に関する情報提供のみを目的としており、いかなる投資助言または推奨を行うものではありません。
DeFiへの参加および暗号資産(仮想通貨)への投資は、高いリスクを伴います。すべての決定は、ご自身の判断と責任において、十分な調査と検討の上、慎重に行ってください。
【ご注意事項】
本記事は執筆者の見解です。本記事の内容に関するお問い合わせは、株式会社HashHub(https://hashhub.tokyo/)までお願いいたします。また、HashHub Researchの各種レポート(https://hashhub-research.com/)もご参照ください。
提供:HashHub Research
執筆者:HashHub Research