▼目次
暗号資産(仮想通貨)チェーンリンク(LINK)は、ブロックチェーンと現実世界のデータを結ぶ分散型オラクルネットワークとして、Web3インフラの中核を担っています。
スマートコントラクトに安全かつ高信頼な外部データを提供し、DeFi(分散型金融)やゲーム、RWA(リアルワールドアセット)など多様な領域で活用が進んでおり、すでに2,300以上のプロジェクトに採用(参考)され、その相互運用性や自動化機能も含めて、Web3と現実社会をつなぐ重要な基盤となっています。
本コラムでは、チェーンリンク(LINK)の概要と2025年4月から6月末にかけての価格推移や市場パフォーマンス、今後の展望、そしてCCIP(クロスチェーン相互運用プロトコル)やRWAなどの分野で見られた技術的進展と戦略的提携の動きを整理し、DeFiおよび伝統金融との接続において果たす役割を概観します。
2025年4月〜6月期:暗号資産(仮想通貨)チェーンリンク(LINK)の価格動向と市場概況
主要暗号資産(仮想通貨)とのパフォーマンス比較(2025年4月〜6月末)
図1.LINKの価格推移チャート(出所:筆者作成)
チェーンリンク(LINK)の価格動向
- 4月9日に10.89ドルの安値をつけた後、5月14日には17.43ドルまで上昇
- その後調整し、6月末時点で13.42ドル
- 四半期全体では1.6%のプラスリターンにとどまる
図2.主要暗号資産とのパフォーマンス比較(出所:筆者作成)
主要暗号資産(仮想通貨)との比較
- ビットコイン(BTC):+31.4%(4月の規制緩和期待、企業のBTC財務戦略ブーム)
- イーサリアム(ETH):+37.2%(5月のPectraアップグレード期待)
- チェーンリンク(LINK):+1.6%(大幅に出遅れ)
パフォーマンス低迷の理由
- ビットコインとイーサリアムに資金が集中
- アルトコイン全体が圧力を受ける相場環境
- 6月の地政学的ニュース(イラン・イスラエル停戦)で一時急騰したものの、持続せず
結論:チェーンリンク(LINK)は主要暗号資産と比べて大幅にアンダーパフォーム。市場の資金がビットコインとイーサリアムに偏ったことが主因とみられる。
※関連レポート
イーサリアム(ETH)の大型アップグレード|ペクトラ(Pectra)の概要・投資家に与える影響
チェーンリンク(LINK)のトークノミクス:供給メカニズムと需要の動向
Chainlinkのネイティブトークンであるチェーンリンク(LINK)は、そのエコシステムの機能とセキュリティを支える上で中心的な役割を担っています。
チェーンリンク(LINK)のトークノミクスは、その供給メカニズムと需要の動向によって特徴づけられます。
◾️固定供給量と初期配分
チェーンリンク(LINK)の最大供給量は2017年のジェネシス(初期生成)時に鋳造された10億トークンに固定されており、これ以上の新規発行は行われません。
これは、ビットコインと同様に、インフレ的な供給増加がないことを意味します。
初期のトークン配分は以下の通りです:
- パブリックセール: 35%(3億5,000万LINK)がICOで販売されました。
- ノードオペレーター/エコシステム: 35%(3億5,000万LINK)が、ノードオペレーターへのインセンティブやエコシステムの発展のために割り当てられました。
- 会社/チーム/準備金: 30%(3億LINK)が、プロジェクトを立ち上げたチームの手に渡り、一部は現在も非流通状態です。
現在の循環供給量は約6億7,810万LINK(参考:Coingecko)。
非流通のトークンが市場に放出されることで、循環供給量は定期的に増加する可能性がありますが、総供給量が増えるわけではありません。
◾️供給量の調整メカニズム:ステーキングの役割
チェーンリンク(LINK)には、イーサリアム(ETH)のEIP-1559のような取引手数料のバーン(焼却)メカニズムは現在導入されていません。
しかし、チェーンリンク(LINK)の供給量、特に市場における流通量を調整する上で重要な役割を果たすのが「ステーキング」です。
Chainlinkのノードオペレーターは、ネットワークのセキュリティと信頼性を確保するために、LINKトークンを担保としてステーキング(ロックアップ)することが求められます。
これにより悪意のある行動が抑制され、もしノードオペレーターが虚偽のデータを提供したり、パフォーマンス基準を満たさなかったりした場合、ステーキングされたチェーンリンク(LINK)の一部が没収される「スラッシング」の仕組みが適用されます。
ステーキングは、LINKトークンを一時的に流通から除外することで、市場の循環供給量を減少させる効果があります。
これにより、トークンの希少性が高まり、価格にポジティブな影響を与える可能性があります。ステーキング参加者は、ネットワークのセキュリティ貢献に対する報酬として、追加のLINKトークンやChainlink Buildプログラムに参加するプロジェクトの独自トークンを受け取ることができます(Chainlink Rewardsプログラム)。
参考:https://chain.link/economics/staking
◾️需要の動向
LINKトークンの需要は、主に以下の要因によって駆動されます。
- ノードオペレーターへの支払い: Chainlinkのノードオペレーターは、オフチェーンデータの取得、データのフォーマット、オフチェーン計算、および稼働時間の保証に対してチェーンリンク(LINK)で報酬を受け取ります。Chainlinkサービスの利用が増加するにつれて、ノードオペレーターへの需要が高まり、結果としてチェーンリンク(LINK)の需要も増加します。
- 担保としての利用: ノードオペレーターがチェーンリンク(LINK)を担保としてステーキングすることで、その需要が生まれます。
- エコシステムの拡大: DeFi、NFT、RWAトークン化、クロスチェーン相互運用性など、ChainlinkのサービスがWeb3エコシステム全体で広く採用されるにつれて、チェーンリンク(LINK)の有用性と需要はさらに高まります。
チェーンリンク(LINK)の固定供給量と、ステーキングによる循環供給量の調整、そしてChainlinkサービスの普及による需要の増加が、LINKトークンの長期的な価値を支える重要な要素となっています。
Chainlinkの主要な進展と将来性:成長を支える鍵となる要素
2025年4月から6月にかけて、ChainlinkはWeb3エコシステムの主要なインフラプロバイダーとしての地位をさらに固めるための重要な進展を多数発表しました。
◾️CCIP(クロスチェーン相互運用プロトコル)の進化と採用拡大
CCIP(Cross-Chain Interoperability Protocol)は、Chainlinkが提供する異なるブロックチェーン間での安全な通信と価値移転を実現するクロスチェーン通信レイヤーです。
パブリックとプライベート双方のチェーンを同一プロトコルで接続できるほか、ISO 20022準拠メッセージやKYCホワイトリストを備えるなど、金融機関の要件を満たす設計が特徴です。
2025年4月以降におけるChainlinkのクロスチェーン相互運用プロトコル(CCIP)は、大幅に進化と採用拡大を続けています。
2025年第2四半期には、SolanaメインネットでCCIPが正式稼働し、最初の非EVMチェーンとしてv1.6アップグレードを受けました。
これによりSolana(ソラナ)はArbitrum、Base、BNBチェーン、Ethereum、Optimism、Sonicなどと安全なクロスチェーン接続を実現。
また、Roninチェーンにおいては2025年4月に旧Ronin BridgeからCCIPへの完全移行が完了し、分散型Oracleネットワーク(DON)がCCIPのコンセンサス層を支えることでセキュリティを強化。
CoinbaseやCompoundなど大手が参画し、DeFi・ゲーム・ソーシャルdAppの連携が促進されています。
加えて、多数のブロックチェーンがCCIPを標準の相互運用基盤として採用を開始し、2025年第1四半期だけで25の新チェーンがネットワークに加わり、対応チェーン数は50に達しました。
15のチェーンがCCIPをカノニカルなクロスチェーンインフラとして利用しています。
図3.CCIPを採用するブロックチェーンネットワーク(出所:ChainlinkBlog)
伝統金融分野でも、ANZ銀行がプライバシー保護プロトコルを用いたリアルワールド資産(RWA)決済の試験導入を行い、JPMorganはOndoテストネットと連携してChainlinkのオラクルを活用したDvP(引渡しと支払いの同時履行)取引を実施(参考)。
VisaとChainlinkはCBDC・ステーブルコイン間交換にCCIPを活用する計画(参考)を発表し、金融機関との連携も一層進展しています。
このようにCCIPは、技術的な進化と幅広い採用により、異なるブロックチェーン間の安全かつ効率的な通信を実現し、Web3の相互運用性を加速するとともに、伝統金融のWeb3活用を強力に後押しする標準的な通信レイヤーへと成長しています。
◾️現実資産(RWA)トークン化トレンドにおけるChainlinkの不可欠な役割
RWA(現実資産)のトークン化は、暗号資産(仮想通貨)市場における主要トレンドであり、Chainlinkはその基盤を支える不可欠なインフラとして存在感を確立しています。
ブロックチェーンと外部世界を安全に接続するというChainlinkの重要な役割から、そのネイティブトークンであるチェーンリンク(LINK)は、K33 ResearchによりRWAエクスポージャーへの「最も安全な選択肢」と評価されています。
主要な金融機関もRWAトークン化の動きを加速させており、前述のJPMorgan KinexysとOndo Financeによるトークン化米国債のDvP(引渡しと支払いの同時履行)パイロットや、Visa・HKMA e-HKD+によるCBDC↔ステーブルコイン交換のパイロットなどがその事例です。
Chainlinkは、これら伝統金融機関がRWAを大規模に導入するために不可欠な、データ接続性、セキュリティ、そしてコンプライアンス面での包括的な機能を提供できる数少ないプラットフォームの一つです。
◾️DeFiエコシステムにおけるChainlinkの揺るぎない地位
Chainlinkは分散型金融(DeFi)業界で事実上の標準となっているオラクルサービスで、数百億ドル規模の資産を保護しながらスマートコントラクトに高品質なデータを提供しています。
AaveやTrader Joe、Lido DAOといった主要DeFiプロジェクトが採用していることからも、その信頼性の高さがわかります。
最近の重要な動きとして、KrakenやBybitが取り扱う株式トークン化プラットフォーム「xStocksFi Alliance」の公式オラクルに採用されました。
これにより、TSLAやNVDAなど50種類以上の株式やETFのトークン化資産に価格データを提供することになり、DeFiと従来の金融市場を結ぶ重要な橋渡し役を担うことになります。
また2025年5月には「Chainlink Rewards」という新しい報酬プログラムを開始しました。このプログラムでは、チェーンリンク(LINK)をステーキングしてネットワークに貢献する参加者に対し、有望なプロジェクトのトークンを報酬として提供します。第一弾ではSpace and TimeのSXTトークンが報酬として配布され、この仕組みがChainlinkエコシステム全体の成長を加速させる効果が期待されています。
◾️Chainlink Automated Compliance Engine (ACE) の発表
Chainlinkが、機関投資家資金のオンチェーン化を目指し、コンプライアンス準拠デジタル資産を可能にする「Automated Compliance Engine (ACE)」を発表。
Apex Group、GLEIF、ERC-3643協会と提携し、Chainlink Runtime Environment (CRE)上で、リアルタイムのポリシー適用、ID管理、モニタリングを行う。
既存金融システムのオンチェーン拡張を可能にし、100兆ドル以上の機関資金流入の障壁を取り除くことを目指すというものです。
主なポイント
- パートナーシップの重み: グローバル金融サービス大手「Apex Group」、唯一の世界的LEI発行機関「GLEIF」、そして許可型トークンの標準である「ERC-3643 Association」といった、コンプライアンスと機関投資家対応において中核をなす組織との連携です。これにより、LEIやvLEIといった既存の信頼フレームワークをオンチェーンに持ち込み、「再利用可能なデジタルID」と「クロスチェーン準拠の資産決済」を可能にする基盤が構築されます。
- 機能の具体性: 「リアルタイムのポリシー適用」「セキュアなID管理」「合理化されたモニタリングとレポート作成」に加え、「CCID(Chainlink Compliant ID)」を介してウォレットを実世界法人に紐付け、KYC/AMLや制裁チェックをオンチェーンで動的に実施できる点は、単なる技術統合を超えた、規制対応の深い理解を示しています。
- 目標の壮大さ: 「2030年までに16兆ドル」と予測されるトークン化資産市場に対し、Chainlink ACEが「世界の資本のほぼ全て(100兆ドル以上)」をオンチェーンに持ち込む鍵となるというビジョン。
Chainlinkの今後の課題と競争環境:持続的成長への道筋
Chainlinkは分散型オラクルネットワーク市場で圧倒的な地位を築いていますが、その地位を維持するためには継続的な改善が必要です。
図4.上位オラクルネットワークの市場動向(出所:DeFiLlama)
競合するオラクルネットワークとの比較(図4)では、Chainlinkは広範な採用と信頼性から生まれる強力なネットワーク効果により、他を大きく引き離しています。
しかし、暗号資産市場自体が不安定な状況にある中で、TVLでChainlinkに次いで二番手につくChronicle Protocolのような分散型オラクルネットワークのような存在もあり、予断を許しません。
もし、これらの新興競合他社がよりコスト効率の高い代替手段を提供し始めた場合、Chainlinkは市場シェアを徐々に低下させるリスクに直面する可能性があります。
Chainlinkが持つ現在の市場優位性は、その広範な採用と高い信頼性によって築かれていますが、この地位を維持するためには、常に技術的な改善を図り、新たな需要に応える革新を続けるという「イノベーションのジレンマ」に直面する可能性があります。
総括:チェーンリンク(LINK)の将来展望
2025年4〜6月にかけて、Chainlinkは以下の分野で大きな前進を遂げました。
- CCIP(クロスチェーン相互運用プロトコル)の採用拡大
- RWA(現実資産)トークン化プロジェクトへの深い関与
- DeFi主要プロトコルでの継続的なオラクル標準化
- LINKステーキング制度「Chainlink Rewards」の始動
これらの動きは、Chainlinkが単なるデータフィード提供者にとどまらず、ブロックチェーンと外部世界を結ぶ基幹インフラへと進化していることを示しています。
特に、伝統金融機関がブロックチェーン技術を大規模に採用する上で不可欠なプライバシーと相互運用性の課題を解決するCCIPの機能は、チェーンリンク(LINK)の将来性を大きく左右する要因となるでしょう。
もちろん、市場ボラティリティや新興オラクルネットワークとの競争といった課題は残ります。
しかし、Chainlinkが示している技術革新のペースとファンダメンタルズの強さは、同プロジェクトがWeb3インフラの中核として成長を続ける土台となっています。
【ご注意事項】
本記事は執筆者の見解です。本記事の内容に関するお問い合わせは、株式会社HashHub(https://hashhub.tokyo/)までお願いいたします。また、HashHub Researchの各種レポート(https://hashhub-research.com/)もご参照ください。
提供:HashHub Research
執筆者:HashHub Research