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Stellar(以下、ステラ)は、金融包摂と国際送金を目的として構築された分散型パブリックブロックチェーンです。
2014年に設立された非営利団体Stellar Development Foundation (SDF)によって推進され、従来の金融システムとデジタル資産間のシームレスな相互運用性を促進することを目指しています。
2025年7月現在、ステラはSorobanスマートコントラクトの本格稼働やリアルワールドアセット(RWA)の統合、主要な金融機関とのパートナーシップを追い風に、実用性と市場での地位を確固たるものにしようとしています。
本レポートでは、2025年第2四半期におけるステラおよびネイティブ通貨である暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)の最新動向を掘り下げ、その技術的特徴、今後の価格を左右する主要なカタリスト、そして投資家が直視すべきリスクと将来性について考察します。
【2025年7月最新】暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)の価格動向
図1.XLMの価格推移チャート
ステラルーメン(XLM)の価格動向
- 4月9日に約$0.2206の安値を記録、その後、5月11日には約$0.3197まで上昇。
- 価格は調整局面に転じ、7月初旬時点では約0.26から0.27付近を推移。
- 四半期全体で見ると、ステラルーメン(XLM)のリターンは-5.4%にとどまった。
図2.主要暗号資産とのパフォーマンス比較
主要暗号資産(仮想通貨)との比較
- ビットコイン(BTC):+32.4%(4月の規制緩和期待、企業のBTC財務戦略ブーム)
- イーサリアム(ETH):+41.0%(5月のPectraアップグレード期待)
- ステラルーメン(XLM):-5.4%(大幅に出遅れ)
市場概況:2025年第2四半期、ステラルーメン(XLM)は、広範な暗号資産市場の調整に連動し、弱気から中立へと推移しました。
この期間、ステラルーメン(XLM)は主要な暗号資産(仮想通貨)と比較して大幅にアンダーパフォームしましたが、これは市場全体の調整と、資金がビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)といった主要銘柄に集中したことが主な要因と考えられます。
しかしながら、ステラルーメン(XLM)は2025年6月のPayPal USD(PYUSD)のステラネットワークでの展開計画発表という注目すべき進展を含め、いくつかの重要なファンダメンタルズを備えています。
加えて、Sorobanスマートコントラクトの着実なアップグレードや、2021年に発表されたVisaとの既存提携、固定された供給量も、ステラルーメン(XLM)の長期的なポテンシャルを支える要素となっています。
暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)の特徴・仕組み
ステラルーメン(XLM)の市場における独自の地位を理解するためには、その技術的特徴と経済モデルを把握することが不可欠です。
◾️ステラルーメン(XLM)の基本
暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)はステラネットワークのネイティブ通貨であり、発行者やトラストラインを必要としない唯一のトークンです。
これらはネットワーク上のすべての取引手数料やレント(スマートコントラクトデータストレージの費用)、最低残高要件の支払いに使用されます。
取引手数料はスパム防止のために少額が課され、スマートコントラクト取引にはリソース消費に基づく異なる手数料体系が適用されます。
アカウントは最低2ベースリザーブ(現在1 XLM)を維持する必要があり、追加のサブエントリごとに0.5XLMのベースリザーブが求められます。
スマートコントラクトデータはベースリザーブを必要とせず、代わりにデータサイズと存続期間に応じたレントを支払います。
◾️技術的基盤とコンセンサスアルゴリズム:Stellar Consensus Protocol (SCP)
ステラは、高速かつ低コスト、そしてエネルギー効率に優れた金融取引を実現するために構築された分散型パブリックブロックチェーンです。
その核となるのがコンセンサスメカニズムである「Stellar Consensus Protocol (SCP)」です。
SCPホワイトペーパー:https://stellar.org/learn/stellar-consensus-protocol
- SCPの独自性: SCPは、Proof-of-Work(PoW)のようなエネルギー集約型のマイニングを必要とせず、ネットワーク参加者間の迅速なメッセージ交換によって動作します。これは「Proof-of-Agreement」と呼ばれるメカニズムを利用しており、各ノードが信頼する他のノードのリストである「クォーラムセット」を独自に選択することで、分散型でリーダーレスなコンピューティングネットワークが効率的に合意に達することを可能にします。
- 高速性、低コスト、エネルギー効率: SCPにより、ステラネットワークでの取引はほぼ瞬時に(通常約3〜5秒で)最終確定され、非常に低い取引手数料(通常1セント未満)で実行されます。ステラは1秒あたり最大1,000トランザクション(TPS)を処理でき、最新ロードマップではスマートコントラクト実行の最適化により5,000 TPSの目標を掲げています。
◾️ステラルーメン(XLM)発行上限と供給モデル:インフレメカニズムの廃止と固定供給量
- 固定供給量: ステラは当初1,000億枚のステラルーメン(XLM)が発行され、年間1%のインフレメカニズムがありましたが、2019年のコミュニティ投票によりこのインフレメカニズムは廃止されました。その後、総供給量は約500億枚に削減され、そのうち約300億枚が現在流通しています。(図3参照)
図3.2025年7月現在のステラルーメン(XLM)の総供給量、非循環供給量、循環供給量(出所:https://dashboard.stellar.org/)
- SDFによる保有: 残りのステラルーメン(XLM)はStellar Development Foundation (SDF)がネットワークの開発とプロモーションのために保有しており、その保有状況は公開されています。(図4参照)
図4.2025年7月現在のSDFによるXLM保有状況(出所:https://stellar.org/foundation/mandate)
◾️ステラネットワークの「アンカー」とは?
ステラネットワークには、「アンカー」と呼ばれる重要な機能が存在します。
アンカーは、金融機関やフィンテック企業など、従来の金融システムとデジタル資産エコシステムとを橋渡しする役割を担い、法定通貨とデジタル資産の間の売買および入出金(オンランプ/オフランプ)サービスを提供します。
※既存アンカーの詳細はアンカーディレクトリで確認できます。(図5参照)
図5.世界に分布する既存ステラ・アンカー一覧(出所:https://anchors.stellar.org/)
アンカーの仕組み
具体的には、アンカーは銀行預金や現金入金ポイントといった既存の金融の仕組みを利用して、法定通貨の預金を受け入れます。
その見返りに、預金したユーザーにはステラネットワーク上で、預金と同等の価値を持つデジタル資産(トークン)を発行します。
逆に、トークンの保有者はアンカーを通じて、そのトークンを現実世界の法定通貨に換金することも可能です。
アンカーは、発行するトークンが常に現実世界の資産に裏付けられていることを保証することで、ステラシステムの信頼性を保っています。
国際送金における役割
このアンカーの存在は、特に国際送金(クロスボーダー決済)において非常に重要です。
利用者は、送金先の国のアンカーを通じて、ステラネットワークで受け取ったトークンを簡単に現地通貨に交換できます。
これにより、これまで時間もコストもかかっていた複雑な国際送金プロセスを、効率的かつスムーズに行えるようになります。
暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)の今後~将来性:主要なカタリスト
ステラルーメン(XLM)における今後の将来価格は、その技術的進化、実用性の向上、そして戦略的なパートナーシップに大きく依存しています。
◾️Sorobanスマートコントラクトの導入とエコシステム拡大
Sorobanは、2024年2月20日にメインネット導入されたステラネットワークにスマートコントラクト機能をもたらすアップグレードであり、ステラルーメン(XLM)のユースケースを飛躍的に拡大する主要なカタリストです。
図6.Soroban導入後のステラ DeFi TVLの成長推移(出所:DeFiLlama)
- TVLの顕著な伸びと今後の展望: Sorobanの導入により、ステラ上で分散型金融(DeFi)アプリケーション、リアルワールドアセット(RWA)のトークン化、そしてWeb3アプリケーションの開発が本格化し、導入前のDeFi TVLが約1,000万ドルだったのに対し、2025年7月現在は約8,800万ドルまで成長しています(図6参照)。EVM系ブロックチェーンを含むDeFi TVLランキングは49位(※DeFiLlama参照)と決して上位とは言い難いですが、RWAやDEXなどのプロトコルが開発され堅実に成長を遂げています。
- 性能目標: ネットワーク性能の強化も進められており、前述したように2025年には5,000TPSと2.5秒のブロックタイム達成を目指しています。
◾️リアルワールドアセット(RWA)の統合と機関投資家の採用
リアルワールドアセット(RWA)のトークン化は、ステラの主要な成長戦略の一つであり、機関投資家からの大規模な資金流入を促進する可能性があります。
- オンチェーンRWA目標と実績: SDFは2025年Q1レポートで、30億ドルのオンチェーンRWAを促進するという野心的な目標を掲げています。2025年第1四半期には、すでに総RWA供給量が7億5,700万ドルに達し、そのうち4億7,200万ドルが利回り付き資産であったと報告しています。
◾️戦略的パートナーシップと国際送金市場での役割
ステラは、そのビジョンを実現するために、主要な金融機関やテクノロジー企業との戦略的パートナーシップを積極的に構築しています。
- PayPal、Visa、MoneyGram、IBMなどとの連携: 2025年6月11日、PayPalはPYUSDステーブルコインをステラネットワーク上でローンチし、新たな送金および決済ユースケースに活用する計画を発表。その他にも、Visa、Tala、Circleと組み金融包摂ソリューションを提供。銀行口座を持たない人々向けにはMoneyGramと提携して現金との交換サービスを展開し、IBMとは国際送金プラットフォーム「IBM World Wire」の開発を支援してきました。
暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)とエックスアールピー(XRP)の比較
ステラルーメン(XLM)とエックスアールピー(XRP)は、どちらも国際送金と金融包摂の効率化を目指すブロックチェーンプロジェクトであり、リップル社同様、Jed McCalebによって共同設立されたという共通の起源を持っています。
両者ともに高速かつ低コストな取引を実現しますが、そのアプローチ、ターゲット層、技術的基盤には明確な違いがあります。
◾️目的とターゲット層
- エックスアールピー(XRP): 主に銀行や金融機関といった大規模な組織間の国際送金に焦点を当てています。
- ステラルーメン(XLM): 個人や中小企業、特に銀行口座を持たない人々や開発途上国における金融包摂を重視しています。
◾️コンセンサスアルゴリズム
- エックスアールピー(XRP): Proof-of-Association(PoA)コンセンサスアルゴリズムの一種を採用し、信頼されたバリデーターのネットワーク(UNL)が合意に達することで機能します。かつてはRipple Labsがネットワークに大きな影響力を持っていたため、一部からは中央集権的であるとの見方もありましたが、現在は分散化が進んでいます。ただし、それでも基本的には信頼できる特定のグループが取引を承認するモデルです。
- ステラルーメン(XLM): エックスアールピー(XRP)のコンセンサスアルゴリズムに類似していますが、ステラが採用する「Stellar Consensus Protocol (SCP)」は、より分散型の合意形成を目指しています。SCPでは、各ノードが自身で信頼する他のノードのリスト(クォーラムセット)を独自に選択。そして、それぞれのノードが自身のクォーラムセット内の過半数の同意を得ることで、ネットワーク全体の合意が形成されます。
この二つの大きな違いは、誰が「信頼できるノード」のリストを決定するかという点にあり、エックスアールピー(XRP)が事前に推奨された(または多数派によって信頼されている)特定のリストに基づいて合意が形成されるのに対して、ステラルーメン(XLM)は各ノードが個別に信頼するノードを選択するため、特定の管理者や組織の意思に依存せず、より分散的でレジリエント(回復力がある)な合意形成が可能だとされています。
◾️取引速度と手数料
両者ともに、取引は数秒(通常3〜5秒)で最終確定され、手数料は非常に低い(通常1セント未満)という共通の利点を持っています。
◾️スケーラビリティ
- エックスアールピー(XRP): XRP レジャーは、最新のテストでは1秒あたり最大3,400トランザクション(TPS)を処理できるとされています。(参考:https://ripple.com/xrp/)
- ステラルーメン(XLM): 現在は1秒あたり最大1,000トランザクション(TPS)を処理できますが、スマートコントラクト実行の最適化により、5,000 TPSの達成を目標としています。
◾️供給モデル
- エックスアールピー(XRP): 総供給量は1,000億枚で固定されており、すべてがプレマインされています。
- ステラルーメン(XLM): 総供給量は約500億枚に削減され、固定されています。
暗号資産(仮想通貨)ステラルーメン(XLM)の買い時考察
ステラルーメン(XLM)への投資を検討する際は、その大きな可能性だけでなく、潜在的なリスクもしっかりと理解しておく必要があります。
ステラは2024年2月に導入されたスマートコントラクト機能「Soroban」によって、オンチェーン取引は着実に増加しており、開発面や技術基盤においては前向きな進展が見られます。
ファンダメンタルズの観点からも、一定の成長期待を持てる状況にあるといえるでしょう。
一方で、投資タイミングとして「買い時」と明確に言い切るのはやや難しい局面でもあります。
というのも、ステラの市場規模は他の主要チェーンと比較するとまだ限定的であり、特に注力しているクロスボーダー決済やRWA(リアルワールドアセット)、DeFiといった分野では、エックスアールピー(XRP)をはじめとする競合との激しい争いが続いています。
また、業界全体が規制の移行期にあるなかで、今後導入される新たな規制がステラルーメン(XLM)の採用や価格にどう影響するかも不透明です。
加えて、Stellar Development Foundation(SDF)によるステラルーメン(XLM)の売却が市場に売り圧力を与えるリスクも意識しておく必要があります。
このように、前向きな要素と懸念材料の両面が存在しているのが現状です。
今回はあえて「今が買い時」と断言することは避けましたが、ステラルーメン(XLM)が持つポテンシャルと課題を総合的にご判断いただければと思います。
総括
現状のステラは、DeFiの規模や市場シェアという点ではまだ「確固たる地位」とはいえませんが、国際送金とRWAトークン化に特化した実用性の高いブロックチェーンとして、そして既存の金融システムとの橋渡し役として、明確な「独自の地位」を築きつつあります。
ステラルーメン(XLM)の今後の鍵は、Sorobanを介したDeFiやRWAの採用がどれだけ加速するか、そしてPayPalのような大規模パートナーシップがどれだけ実際のオンチェーン決済量に貢献し、本質的な価値基盤を確立できるかにかかっています。この「ユニークな立ち位置」を「確実な市場での地位」へと昇華させられるか、現在その途上にあるといえるでしょう。