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2025年末を迎え、暗号資産(仮想通貨)市場の「次の一手」に関するレポートや論考が相次いで出ています。
その中でも、ステーブルコインの構造的な視点を与えてくれるのがVariantの「Crypto Trends Report(All the Trends from 2025)」と、Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)のブログ「Ideas we are excited for in 2026」です。
両者が描いている方向性はかなり近いものです。
本レポートでは、この2つを俯瞰しながら、特にステーブルコインとその「次のレイヤー」について、投資家や事業推進者の視点から考察します。
ステーブルコインはすでにPMFし、インフラになりつつある
まず押さえておきたいのは、両レポートとも「ステーブルコインはすでにPMF(プロダクトマーケットフィット)済みで、決済インフラとして重要な地位を確保した」という前提に立っていることです。
引用:https://blog.variant.fund/variant-newsletter-november-2025
Crypto Trends(クリプト・トレンド)では、供給量やアクティブウォレット数、チェーン別シェアなどのデータを通じて、ステーブルコインが取引所の担保、レンディング、送金・決済などで広く使われている現状が整理されています。
一方、Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)のブログは、2025年を振り返る中で「ステーブルコインインフラが決済を再構成した」とさらっと言及するだけです。
記事の主眼はその先、2026年にどの分野でビルドや投資をしたいかにあります。
スタンスの違いはあっても、
「ステーブルコインは本当に使われるようになった」
「その上で何が起こるかが次の論点だ」
という認識はおおむね一致していると言えます。
違うのはズームレベルと時間軸
両者の違いは、どちらが正しいかという話ではなく、どのズームレベルで市場を見ているか、時間軸をどこに置いているかにあります。
Crypto Trendsは、クリプトの発展を「資産の創造(Creation)」「蓄積(Accumulation)」「利用(Utility)」という3つのSカーブで説明しています。
ステーブルコインは、このうち特に「利用」のSカーブを引っ張る中心的な存在として描かれます。
引用:https://blog.variant.fund/variant-newsletter-november-2025
さらにCrypto Trendsは、次のようなテーマを「これからのホワイトスペース」として列挙します。
- 企業やブランドが自社圏内で発行する branded money
- 米ドル以外の通貨を扱う非USDステーブルコイン
- 支払いに最適化されたチェーン
- AIエージェントによる自律的なステーブルコイン決済
5〜10年スパンで、「ここまで来た」「この方向に広がりうる」という地図を示しているイメージです。
Coinbase Venturesのブログは、もっと短い時間軸で語っています。
彼らが「2026年にワクワクしているアイデア」として挙げるのは、次のような領域です。
- RWA Perpetuals
- Prop-AMMや予測市場ターミナルなど、特化型取引所とトレーディング端末
- 無担保レンディングを含む次世代DeFi(分散型金融)
- オンチェーン・プライバシー
- AIとロボティクス、Proof of Humanity、AIエージェントによるスマコン開発支援など
ここでは、ステーブルコインはほぼ説明されません。
その代わり、「ステーブルコインやオンチェーンインフラが整った前提で、その上にどんなプロダクトが乗るか」を具体的に示しています。
【2025年最新】2026年以降のステーブルコイン領域のトレンド予測
では、ステーブルコインそのもの、あるいはその周辺は、どのように見るべきでしょうか。
Crypto Trendsは、発行ビジネスのマージンが金利やディストリビューションコストに圧迫されることを認めつつも、スタック全体(発行、オン・オフランプ、決済レール)にはまだ多くのスタートアップ機会があると述べています。
引用:https://blog.variant.fund/variant-newsletter-november-2025
一方で、現実には以下のような構造が見えてきています。
- 発行はすでに数社の大手プレイヤーに集中している(USDT(Tether)/USDC(USD Coin))
- AML/CFT、制裁、会計・税務、資本規制への対応コストが高い
- 利回りや信用リスクのマネジメントには、従来金融のノウハウが必要
さらに上述の通り金利やディストリビューションコストがかかる問題も絡みます。
サークル(Circle)社決算の状況は以下のレポートに詳しいです。
関連レポート:ステーブルコイン USDCを発行するサークル(Circle)社の2025年Q3決算分析。今後の展望も考察
このため、「純粋なステーブルコイン新規発行ビジネス」に、これから大きなリターンを期待するのは難しいと考えるのが自然かも知れません。
なぜなら、収益の大部分が短期金利に依存していたり、サークル(Circle)社の開示によれば売上の6割超がディストリビューションコストに使われていることが挙げられるからです。
現実的に意味があるのは、次のようなポケットだと思います。
- トレジャリーマネジメントとオンチェーンT-bill:ステーブルコインを入口に、トークナイズド国債や短期金融商品と組み合わせて法人の余剰資金運用を提供する領域です。RWA関連とも接続しやすく、実需と規制のバランスを取りやすいゾーンです。
- クロスボーダー決済のニッチな利用:既存のコルレスネットワークが高コスト・高リスクな地域では、ステーブルコイン経由の送金・決済は引き続き有力な選択肢です。ただし、これは世界を一気に置き換える話ではなく、通貨・地域ごとの細かい積み上げになります。
- B2Bインフラ(会計・監査・コンプライアンス):ステーブルコイン利用を前提としたトラベルルール、KYC/AML、オンチェーンの証跡管理など、金融機関・フィンテック向けのSaaSやミドルウェアはまだ未成熟なようです。
逆に、Crypto Trendsが強く打ち出す、非USDステーブルコインやエージェント決済、支払い特化チェーンといったテーマは、実需・規制・ネットワーク効果のいずれもハードルが高く、かなり長い時間軸で見るべきものだと感じます。
ここに早い段階から大きく張るのは、リスクに対してリターンが見合うのか慎重に見極める必要がある、というのが筆者の考えです。
特に非USDステーブルコインは、ニーズや規模として、グローバルの相対としては小規模なニッチであり続ける可能性も考慮する必要があると思います。
総合すると、ステーブルコインについては、
- インフラとしては引き続き伸びる
- ただし、プレイヤーのエクイティ/トークンとしての超過リターンは、すでにかなり先行者側に寄っている
- 新しいリターンは、その上に載る信用・デリバティブ・プライバシー・AIといったレイヤーで生まれやすい
という前提を置くと、両レポートのメッセージがきれいに整合します。
総括
本レポートでは、2つのレポートをステーブルコインを軸に考察しました。
2026年にどこへ資源が投入されるのか、上記の流れが今後も進むと見ても、筆者としては特に違和感はありません。
【ご注意事項】
本記事は執筆者の見解です。本記事の内容に関するお問い合わせは、株式会社HashHub(https://hashhub.tokyo/)までお願いいたします。また、HashHub Researchの各種レポート(https://hashhub-research.com/)もご参照ください。
提供:HashHub Research
執筆者:HashHub Research
