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前提
11月13日に米国で初のスポットXRP ETF(上場投資信託)となるCanary Capital(カナリー・キャピタル)社の「XRPC」ファンドがナスダック証券取引所に上場し、初日から約5,800万ドルの出来高を記録したことが話題となりました。
これは、2025年に新規設定されたETF全体(約900本以上)の中で最大の初日取引高となり、10月末にデビューしたBitwise(ビットワイズ)社のSOL ETF(BSOL)の5,700万ドルを僅かに上回るものとされています。
出典:https://x.com/EricBalchunas/status/1989077502300680375
他方、同日、クリプト市場全体は不安定な動きを見せ、ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の主要ETFから合計で約11億ドルもの資金が流出し、暗号資産(仮想通貨)ビットコイン(BTC)の価格は数か月ぶりに99,000ドルを割り込み、投資家心理の明暗が分かれる一日となりました。
そうしたことを踏まえて本レポートでは、新規XRP ETFの戦略的意義やビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)ファンド資金流出の背景、そして暗号資産(仮想通貨)ETF市場の構造変化などについてピックアップしつつ、ソラナ(SOL)をはじめとする他のアルトコインETFとの比較や今後の展望にも触れていきたいと思います。
XRP ETFの戦略的意義
まずは先に述べたように、エックスアールピー(XRP)に連動する初の米国ETF「XRPC」が、上場初日に約5,800万ドルという驚異的な取引高を記録しました。
この数字は、今年登場したETFの中で最も大きく、2位のSOL ETF(BSOL)の初日5,700万ドルを僅差で上回るものとなっています。
なお、XRPCとBSOLの2本が突出しており、3位以下の新規ETFとは2,000万ドル以上の差をつけていることから、暗号資産(仮想通貨)関連ETFへの投資家需要の高さが際立っていると言えます。
この成功をもたらしたXRP ETFの戦略的な意義としては、まずビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)以外の主要アルトコインへの規制された投資手段が初めて本格的に提供されたことを意味し、投資家はXRP ETFを通じて、エックスアールピー(XRP)を直接保有せずともその価格動向に連動した利益を得ることが可能となったことが挙げられます。
これは、カストディ(保管)やセキュリティ面の負担を軽減しつつ、Ripple(リップル)社が関与するエックスアールピー(XRP)の国際送金ネットワークなど、ユースケースを持つ資産へのエクスポージャーを得られる点で魅力的だと言えます。
実際、エックスアールピー(XRP)の送金インフラとしての実績やエコシステムの成熟が、機関投資家の関心を引きつけたと考えられます。
また、ブルームバーグ(Bloomberg)のETFアナリストであるエリック・バルチュナス(Eric Balchunas)氏によれば、このXRP ETFの登場は「ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)以外への分散投資ニーズが高まっている証拠」だと言います。
というのも、Eric氏は当初XRP ETFの初日流入を約1,700万ドル程度と予想していましたが、実際にはその3倍以上の規模に膨れ上がり、市場の予想を大きく上回る需要があったことが示されたのです。
これは、規制当局の承認を得た新たなアルトコインETFへの期待感がいかに強かったかを物語っています。
ただし、エックスアールピー(XRP)そのものの価格はETF上場当日に急騰することはなく、むしろ7%以上下落し、一時的に重要なサポート水準だった2.30ドルを割り込む場面もありましたが、これは同日の市場全体のリスクオフ傾向によるもので、ETFデビューの好材料が短期的な価格押し上げには直結しなかった格好だと考えられます。
長期的には、ETFを通じた間接保有が増えることで流動性が向上し、エックスアールピー(XRP)市場の安定性や評価向上につながる可能性もあり得るため、XRP ETFの滑り出しは暗号資産(仮想通貨)市場においてビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)以外にも機関投資家マネーが向かう時代の幕開けを示唆していると言えるでしょう。
ビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)ファンドからの資金流出の背景

出典:https://researchblog.coinshares.com/volume-260-digital-asset-fund-flows-weekly-report-7d22b850b6ca
一方、XRP ETFが華々しいスタートを切った同日、ビットコイン(BTC)およびイーサリアム(ETH)の既存ETFからは大量の資金流出が発生しました。
bitgetの記事によると、11本の米国上場スポットビットコイン(BTC)ファンドから合計約8億6,700万ドル、9本のイーサリアム(ETH)ファンドから約2億6,000万ドルが1日で流出し、合わせて約11億3,000万ドル(約1,700億円)の資金が引き揚げられた計算になります。
これは、これらファンドの過去22ヶ月の運用歴史の中で2番目に大きな単日流出額であり、市場環境の急変ぶりを示す異例の事態であると言われています。
この背景には複数の要因があると考えられますが、まず市場全体のリスク回避ムードが挙げられます。
11月中旬は、米国経済・政治の不透明感が高まり、テック株を含むリスク資産全般で売りが広がっていましたし、実際に暗号資産(仮想通貨)ビットコイン(BTC)の価格はこの日半年ぶりの安値圏となる98,500ドルを割り込み、10月初旬の過去最高値(約12万ドル)から20%下落する局面となりました。
そして、イーサリアム(ETH)やソラナ(SOL)もそれぞれ4~5ヶ月ぶりの安値に沈むなど、暗号資産市場全体が調整局面に入っていたのです。
こうした価格下落局面では、一時的にでも利益確定や損失回避のため、ETFから資金を引き揚げる動きが強まる傾向があります。
出典:https://researchblog.coinshares.com/volume-260-digital-asset-fund-flows-weekly-report-7d22b850b6ca
さらに、個別ファンドの動きを見ると、大手運用会社のBTC ETFで多額の解約が起きていました。
例えば、ブラックロック(BlackRock)社の「iShares Bitcoin Trust(IBIT)」では、この日単独で約2億5,000万ドルを超える資金流出が発生し、同社BTC信託の運用資産(AUM)は約800億ドル規模ながらも投資家の売り圧力に晒されました。
また、フィデリティ社が運用するWise Origin Bitcoin Trust(FBTC)でも1億1,900万ドル以上が引き出されているため、このIBITとFBTCという最大手2ファンドだけで約3億7,000万ドルもの資金が一日で流出した計算です。
実は、これらBTC ETFでは11月に入ってから断続的な資金流出が続いており、IBITは過去13取引日間で累計10億ドル超、FBTCも約6億8,100万ドルの資金が流出していましたが、これは10月までの力強い上昇を受けた利益確定売りや、年末を控えたポートフォリオ調整が一因と考えられます。
また、米国長期金利の動向や金融政策の先行きによっては暗号資産から資金が一時退避する傾向も指摘されており、例えば米連邦準備制度の年内利下げ観測が後退したことも投資マインドに影響した可能性があります。
出典:https://researchblog.coinshares.com/volume-260-digital-asset-fund-flows-weekly-report-7d22b850b6ca
ただ、重要なのはこれらの動きが「暗号資産(仮想通貨)離れ」そのものを意味するわけではない点です。
過去数週間でビットコイン(BTC)関連投資商品の累計流出額は数十億ドル規模に達していますが、その一方で別の分野や新興プロダクトへの資金循環も確認されていますし、実際に今回のXRP ETFへの大規模流入はその顕著な例だと言えます。
こうしたことを踏まえると、「成熟しつつあるビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)から一旦資金を引いているが、暗号資産市場自体から退場したわけではなく、新たな高リスク・高リターン領域に乗り換えている」という仮説も提唱できるため、別の言い方をすれば、投資家の資金は暗号資産(仮想通貨)セクター内で再配置されているとも考えられます。
ETF市場の構造的変化
振り返れば、今年は暗号資産(仮想通貨)ETF市場において大きな構造転換が起きている年だと言えます。
というのも、これまではビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)が現物ETF(またはそれに準ずる信託型商品)の中心であり、機関投資家マネーもその二大資産に集中してきました。
しかし、2025年後半からソラナ(SOL)やエックスアールピー(XRP)といった主要アルトコインのETFが次々と認可・上場され始めたことで、市場の様相が変わりつつあります。
まず、SOL ETF(BSOL)の成功が一つの転機となりました。
前提パートでも言及したように、ビットワイズ(Bitwise)社が10月28日にローンチしたBSOLは、初日から約5,700万ドルの出来高を集めていますが、これはアルトコインETFへの潜在需要が相当に大きかったことを示すものであり、XRP ETFの盛況にもつながったと考えられます。
BSOLはステーキング報酬も取り込む仕組みであり、単なる価格連動以上の利回り追求商品として設計された点も投資家の関心を惹いたと考えられますが、こうした「比較的ボラティリティが大きい新規アルトコインETF」は、既に成熟したビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)に比べて短期リターンを狙う資金には魅力的に映ったと言えます。
出典:https://youtu.be/u7OmaxXsaBc?si=UTBQYku43J5BQCFm
また現在では、エックスアールピー(XRP)やソラナ(SOL)のみならず、他のアルトコインへのETF拡大も進んでいます。
例えば、グローバル投資企業のVanEck(ヴァンエック)社は、3月にアバランチ(AVAX)の価格に連動するETFをデラウェア州で登録申請しています。
VanEckは、既にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、SOL ETFも手掛けており、アバランチ(AVAX)は4つ目の単独暗号資産ETFとなります。
同社の動きは、暗号資産ETFの商品ラインナップを拡充する戦略の一環であり、アバランチ(AVAX)のような新興プロジェクトにも機関資金を呼び込む狙いがあると考えられます。
加えて、ナスダック証券取引所はライトコイン(LTC)やヘデラ(HBAR)といったアルトコインETFの上場も視野に入れているとの報道もあり、暗号資産ETF市場は主要2銘柄の寡占状態から多様なアルトコインへの分散期に入ったと言えるでしょう。
こうした構造変化により、投資家にとっての選択肢は飛躍的に広がりました。
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)は依然として「デジタル資産の基軸」としてポートフォリオのコアを占めるものの、そこに衛星的にアルトコインETFを組み合わせる戦略が、現実味を帯びています。
従来、アルトコインはボラティリティが高く、直接保有はリスクが大きいと敬遠されがちでしたが、ETFという形であれば規制の枠内で透明性を持って投資できるため、機関投資家も参入しやすくなります。これにより、暗号資産市場全体への資金流入も拡大する可能性があります。
他のアルトコインETFとの比較と今後の展望
さて、今回のXRP ETF登場は、SOL ETFの成功と合わせて「アルトコインETF時代」の到来を告げる出来事だったと言えますが、一方で価格面の動きは対照的でした。
ソラナ(SOL)の市場価格は、ETF上場前後で短期的な乱高下はあったものの中期的には堅調さを維持し、年初来パフォーマンスも良好です。
それに対しXRPは、ETF上場当日に下落する場面がありました。
もっとも、これはタイミング的な市場全体の下げ圧力の影響であり、単独で比較して優劣を論じるのは早計でしょう。
出典:https://www.coingecko.com/en/coins/xrp
今後の展望として、まず追加のアルトコインETFローンチが続くことが予想されます。
エックスアールピー(XRP)に関しては、他の資産運用大手も次々と参入しており、カナリー・キャピタル(Canary Capital)社に続いて他社の製品など複数が立ち上がれば、同じエックスアールピー(XRP)市場内で競合が起こる可能性があります。
これは投資家にとっては手数料や運用手法の差異を比較できるメリットがある一方、流動性が分散することで各ETFの出来高が分散する可能性もあります。
しかし、エックスアールピー(XRP)という資産自体へのトータルな資金流入は増えるため、マーケットメイキングの効率や裁定取引による価格安定効果などポジティブな側面も期待できます。
さらに、ソラナ(SOL)やエックスアールピー(XRP)に続く銘柄としては、上述のアバランチ(AVAX)やライトコイン(LTC)、ヘデラ(HBAR)などが候補に挙がっています。
特にアバランチ(AVAX)は、スマートコントラクト分野でイーサリアム(ETH)と競合するプラットフォームの一つであり、既に欧州など海外ではETP(上場投資商品)として提供されているケースもあるため、今後米国市場で承認されれば、新たな資金呼び込み要因となるでしょう。
また、グレースケール(Grayscales)社が運用する複数のアルトコインを含む投資信託をETF形態に転換する構想も伝えられており、単一資産だけでなくマルチアセット型の暗号資産ETFも登場する可能性があるため、これらは投資家の分散投資ニーズに応える商品として注目されます。
総じて、暗号資産ETF市場は「ローテーションの時代」に入りつつあると見られます。
すなわち、新しいETFが登場するたびに投資家の関心と流動性がその次のテーマに移り、一定期間資金が集中する現象が続く可能性があります。
ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)は既に多くの資金が定着しつつあるコア資産ですが、投資家はさらなるリターンを求めて、よりボラティリティの高いアルトコインETFに資金を循環させる動きを強めるかもしれず、またこれは株式市場における「大型安定株から新興グロース株へ資金がローテーションするような現象」に似ています。
もっとも、こうした流れには注意点も伴います。
アルトコインETFは高い成長ポテンシャルを提供する反面、基礎となる暗号資産(仮想通貨)自体の技術リスクや流動性リスクも内包します。
ETFという証券化商品になったことで表面的には安心感がありますが、最終的には原資産の価値に依存するため、その点を誤解してはならないと言えます。
また規制面においても、新規アルトコインETFが増えることによって、SECなど当局の監視も一段と厳しくなる可能性があります。
しかし現時点では、米国初のXRP ETFが滑り出しに成功したことで、暗号資産分野への機関投資マネーの裾野は確実に広がったと評価できます。
総括
今回お伝えしたように、カナリー・キャピタル(Canary Capital)社のXRP ETF「XRPC」の歴史的な船出と、同日に起きたBTC・ETHETFからの大規模資金流出は、暗号資産(仮想通貨)投資の潮流が変わりつつあることを示しました。暗号資産ETF市場は今後さらに多様化し、資金の流れもめまぐるしく変化するでしょう。
一般投資家の皆様におかれましても、新しい商品や市場動向にアンテナを張りつつ、適切なリスク管理を行うことが一層重要になる局面です。
規制の枠組みの中で拡大するクリプトETFの世界は、従来の常識にとらわれない柔軟な発想と、確かな情報に基づく判断を投資家に求めています。
今まさに訪れつつある「ローテーション時代」を見据え、引き続き市場の動きを注視していきたいと思います。
【参考資料】
https://etfs.canary.capital/xrpc/
https://x.com/CanaryFunds/status/1988961258729599256
https://www.businesswire.com/news/home/20251113588596/en/Canary-Capital-Launches-Spot-XRP-ETF-XRPC-Delivering-Simplified-Access-to-a-Foundational-Blockchain-Asset
https://www.coindesk.com/markets/2025/11/14/canary-s-xrp-etf-tops-2025-debuts-with-usd58m-day-one-volume
https://decrypt.co/348641/xrp-etf-years-strongest-debut-58-million-first-day-trading
https://decrypt.co/348651/bitcoin-ethereum-etfs-shed-1-billion-assets-xrp-fund-soars
https://cryptonews.com/news/first-us-spot-xrp-etf-debuts-with-58m-volume/
https://www.bitget.site/amp/news/detail/12560605063527
https://www.coindesk.com/daybook-us/2025/11/14/running-for-the-exits-crypto-daybook-americas
https://www.coindesk.com/markets/2025/03/12/franklin-templeton-joins-xrp-etf-rush-files-preliminary-application-with-sec
https://www.bitget.com/news/detail/12560604634800
https://www.bankless.com/read/news/new-xrp-etf-surges
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提供:HashHub Research
執筆者:HashHub Research
